プレ企画|大阪アジアン映画祭・特別ゼミナール(全6回)
第3回開催レポート|2014年11月16日@大阪歴史博物館

前回講座から1か月半ぶりに大阪歴史博物館で行われた、特別ゼミナール第3回。第2回ではフィリピンならではのメインディーズ作品についての話が展開されましたが、「フィリピン映画をテーマにするのは、今回が最後」としながら、講師の暉峻創三プログラミングディレクター(以下暉峻PD)がフィリピン映画およびメインディーズ事情を語りつくしました。フィリピン映画業界をけん引する映画会社、スターシネマの話題や、海外上映に成功しているシネマラヤ映画祭の戦略、そして暉峻PDが選考時に着目したシネマワンオリジナル映画祭出品作についても再度触れました。受講生のみなさんは、かなりフィリピン映画事情に詳しくなったのではないでしょうか。

 

 

■世界で唯一“歴史映画”だけを上映する映画祭!『第6回京都ヒストリカ国際映画祭』、12月に開催。

 

講座がはじまる前に、当講座の受講生で京都ヒストリカ国際映画祭の仕掛け人でもある高橋剣氏より、12月6日~14日まで京都文化博物館・京都みなみ会館で開催される『第6回京都ヒストリカ国際映画祭』の見どころについて、お話がありました。

歴史ものは、世界の映画製作者やアニメーションやゲーム製作者の創作の源として注目されており、世界で唯一“歴史映画”だけを上映する京都ヒストリカ国際映画祭は、ベルリン国際映画祭や香港国際映画祭のプログラミングディレクターからも激励の声をいただくほど注目されているそうです。歴史映画と聞くと、歴史を舞台にした作品や、時代劇・史劇のどちらかをイメージしてしまいますが、近現代以外で歴史を背景にしていれば、比較的細かい制限はつけず、広範囲のジャンルから作品選定を行うようにされているのだとか。また、部門ごとの見どころもご紹介いただきました。

○ヒストリカスペシャル
恋愛映画の巨匠パトリス・ルコント監督をゲストとして迎え、最新作『暮れ逢い』をオープニング上映。また、『るろうに剣心』シリーズ3部作を一挙上映、大友啓史監督とアクション監督の谷垣健治氏、歴史学教授の大石学氏とのトークを予定(チケットは完売)。

○ヒストリカワールド
過去には『刀のアイデンティティ』(OAFF2012)のシュー・ハオフォン監督の次回作『ジャッジ・アーチャー』や、『アンニョン!君の名は』(OAFF2011)バンジョン・ピサンタナクーン監督の最新作『ピー・マーク』(劇場公開タイトル:愛しのゴースト)も上映された、世界中の最新歴史映画を集めた部門。

『悪戦』…今年ワールド部門唯一のアジア映画。12月7日はウォン・ジンボー監督を招いてのトークショーを開催。

『ベル-ある伯爵令嬢の恋-』…2015年6月DVDリリースを記念して、無料上映するイギリス映画。硬派な社会派的部分もありながら、ラブストーリーとしても見応えのある歴史を変えた褐色の伯爵令嬢の物語。

『黄金』…2000年代映画で大きなムーヴメントとなったベルリン派、トーマス・アルスラン監督の最新作。第63回ベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映された作品で、高橋氏イチオシの作品。

『ガイド 少年と盲目の旅芸人』…ウクライナ映画だが、ハリウッド映画のような規模感もカタルシスもあり、コザック民謡で泣かせるエンターテイメント感溢れる作品。座頭市を真似たような箇所もあり、面白い。

『トワイライト・フォレスト』…観た後物語りたい欲望に駆られる、オタク感満載の大変不思議な作品。プログラミングの際に、毎年1本はいわゆる珍品を潜ませるのを楽しんでいるが、今年はこの作品が珍品枠なので、楽しんでほしい。

○ヒストリカフォーカス
日本の時代劇アクションに革命をもたらした『るろうに剣心』アクション監督の谷垣健治氏にフォーカス。谷垣氏が『るろうに剣心』のアクションを考える際に参考にされた作品から、日本刀のアクションを新旧洋邦越えて堪能できる作品を選定。中でも貴重なのは、「伊藤大輔初期チャンバラ集」。様々なジャンルのクリエイターのアイデアの源泉となっているチャンバラ集をご覧いただいた後は、谷垣氏によるトークショーも開催。

第6回京都国際ヒストリカ映画祭公式サイト http://www.historica-kyoto.com/ 

 

仕掛け人、高橋氏よりたっぷりと映画祭の見どころをお伝えいただいた後は、暉峻PDより台湾で国民的ヒットを記録したOAFF2014《台湾:電影ルネッサンス2014》上映作品のドキュメンタリー映画『上から見る台湾』が、『天空からの招待状』というタイトルで12月20日にシネマート3館(新宿・六本木・心斎橋)で一斉公開といううれしい告知がありました。作品に共感した人気俳優、西島秀俊がナレーションを務めたという日本語版も期待できますね。映画祭で見逃した方はこの機会に是非ご覧ください。

『天空からの招待状』公式サイト http://www.tenku-movie.com/

『天空からの招待状』(c) Taiwan Aerial Imaging, Inc.

 

 

 

■フィリピン歴代興行収入TOP10に4作品がランクイン!フィリピン映画界をけん引する「スターシネマ」

 

フィリピン映画界における歴代興行収入TOP10より、『アイアンマン3』や『アベンジャーズ』などのハリウッド映画と互角に渡り合うフィリピン映画の多さが、現在のフィリピン映画の勢いを象徴していると前回解説した暉峻PD。今回は、さらにTOP10に食い込んだフィリピン映画5作品のうち、4作品(『Girl,Boy,Bakla,Tomboy』、『Starting Over Again』、『Sisterakes』、『It takes a Man and a Woman』)の制作会社が同じことに着目し、それらの作品を制作したフィリピン映画最大手のスターシネマについて話が及びました。

日本では東宝のような位置づけにあるスターシネマですが、東宝のように昔からの老舗がメジャーであり続けることは逆に稀で、韓国や台湾、香港では次々と世代交代のごとく、メジャー映画会社が変わっていきます。フィリピンのスターシネマも93年に旗揚げされ、まだ20年強の会社ですが、今やこれほどの成功を収めています。その理由として、スターシネマの親会社がフィリピンメディア界の巨人ともいえる、テレビ局、ラジオ局を持つメジャーチャンネルABS-CBNであることに言及しながら、同じ子会社にシネマワンという映画専門のケーブルチャンネルがあることを指摘しました。

 

■フィリピン・シネマワンオリジナル映画祭から誕生した作品。資金源がメジャー企業なのもメインディーズの要素に。

 

今年のOAFFでグランプリを獲得し、現在劇場公開中の『SHIFT~恋よりも強いミカタ』や、特別招待作品部門の『ブルー・ブースタマーンティー』も、フィリピンのシネマワンオリジナル映画祭自らが作品を作り出し、映画祭でワールドプレミア上映した作品です。また将来オリジナルコンテンツとしてケーブルチャンネル、シネマワンで放送するために作られた作品でもあります。

同映画祭からは企画が通った作品に100万ペソ(日本円で300万円前後)が補助されますが、この補助金の出どころを探ると、親会社のABS-CBNにたどり着きます。「メインディーズとは、作風上メインストリームとインディーズの中間であることや、作られ方はインディーズだがフィリピンのトップ級のスターが出演していることを前回要素として挙げていた。加えて、資金源はABS-CBNというフィリピン映画界の巨人だが、直接企画に意見をされることなく、作品自身はインディーズ的な作られ方であることも、メインディーズの要素と言える」と暉峻PDは、改めてメインディーズの意味づけを解説。この2作品は直接ABS-CBNに出品依頼を交渉し、手続きが大変だったという裏話も披露しました。

 

■海外上映される作品が多いシネマラヤ映画祭、その知られざる戦略とは?

 

優秀な企画に資金を援助する映画祭がフィリピンで次々に誕生する中、2005年からスタートし、今年で10年を迎えるシネマラヤ映画祭は、老舗であり、同映画祭から海外上映される作品が多くなる結果になっています。しかし、もう一つ実質的な戦略として暉峻PDが挙げたのは、審査員の選定。シネマラヤ映画祭では、同映画祭の補助によって作られた作品をワールドプレミア上映するコンペティション部門の審査員に、カンヌ国際映画祭やプサン国際映画祭のプログラミングディレクターを招聘。審査時に印象に残った作品が自然と、それぞれの映画祭で選ばれ、そこから世界のプログラミングディレクターや映画関係者に注目されていきます。シネマラヤ映画祭は世界に対して見せる戦略が長けていますが、暉峻PD は「OAFFで『SHIFT~恋よりも強いミカタ』が上映されたことをきっかけに、シネマワンオリジナル映画祭の作品も世界で注目されるのではないか」と期待を寄せました。

最後に、今回は下記の3本の作品が、DVD参考上映されました。

『バディル』…若手にお金を補助するプロジェクトとも言えるシネンパンバンザ映画祭から誕生した作品。フィリピンの選挙の腐敗。票の買い占め、社会問題を背景にしている。

『Nuwebe』…シネマラヤ映画祭の作品で、ジャーナリストでドキュメンタリー映画出身のジョセフ・イスラエル・ラバン監督作。フィリピンで10歳にして母親になった少女の実話を基にしている。

『レミントンとオカマゾンビの呪い』…第5回したまちコメディ映画祭で暉峻PDが紹介。ある少年がゲイの大人をからかったために、ゲイから呪いをかけられてしまうコメディ作品。ジェイド・カストロ監督作で、『牢獄処刑人』の脚本も務めたミチコ・ヤマモトさんの脚本が秀逸。

 

 

『天空からの招待状』(映画祭上映タイトル『上から見る台湾』)公開情報
12月20日(土)~シネマート新宿、シネマート六本木、シネマート心斎橋
公式サイト http://www.tenku-movie.com/

第9回大阪アジアン映画祭『上から見る台湾』 チー・ポーリン監督、エイミー・ツォンプロデューサー舞台挨拶レポート
http://www.oaff.jp/2014/ja/report/11_2.html#02

 

大阪アジアン映画祭特別ゼミナール第4回は、12月7日に開催いたします。