第12回大阪アジアン映画祭|プレ企画

大阪アジアン映画祭連続ゼミナール

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第4回開催レポート(2016年12月25日@大阪国際交流センター)

2017年3月に開催する「第12回大阪アジアン映画祭」のプレ企画、「大阪アジアン映画祭・連続ゼミナール」第4回。クリスマスにも関わらず、たくさんの受講生にご参加いただきました。今回のゲストスピーカーは、2013年12月、『Fly Me to Minami~恋するミナミ』(第8回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作)公開直後にお越しいただいて以来、2度目の登壇となるリム・カーワイ(林家威)監督

前回の開催レポート http://www.oaff.jp/2014/ja/pre/1215.html

暉峻プログラミング・ディレクター(以下、暉峻PD)は、「大阪では、クリスマスにはリム・カーワイ監督がやって来る」と、冬の大阪を舞台にした作品を撮り続け、毎年この時期に大阪でリバイバル上映を行っているリム監督を紹介。リム監督からは、『Fly Me to Minami~恋するミナミ』に続く新作について、裏話をたっぷり交えながらお話しいただきました。

気鋭のインディーズ映画監督が、香港の超メジャー映画会社で、中国市場デビューを果たす!

OAFFファンには馴染みの深い、マレーシア出身のリム監督。日本、中国、香港、東南アジアを漂流しながら映画をつくることから、“Cinema Drifter”とも呼ばれているリム監督が、香港のメジャー映画会社、Emperor Motion Pictures(EMP)で昨年メジャーデビューを果たしました。「日本で例えれば、インディーズ監督が突然、東宝からメジャーデビューしたようなもの」という暉峻PDの説明に、受講生からもどよめきが。中国市場をターゲットにした日本未公開のリム監督最新作、『愛在深秋』“Love In Late Autumn”は、2016年1月に中国で公開され、5月にDVDが発売されているそうです。

大阪アジアン映画祭連続ゼミナール・第3回開催レポート・BIFF「野外劇場」

CO2の繋がりから実現した、日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞歴を持つ渡邊崇さんの起用。

『愛在深秋』の音楽を担当したのは、『舟を編む』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞、『湯を沸かすほどの熱い愛』『オケ老人!』などの音楽で知られる人気作曲家の渡邊崇さん。かつてCO2作品の音楽を担当したこともあり、以前からリム監督の作品に曲を提供したいと声を掛けて下さっていたそうです。「前作までの予算だと渡邊さんにはお願いできなかった。今回はメジャー作品で予算もあったので、渡邊さんにオファーできました」とのこと。予算は1千万香港ドル(約1億5千万円)あったそうです。

香港のメジャー映画会社EMPで作品が撮れた理由。鍵を握るのは、主演、プロデューサーを務めた香港女優、アイリーン・ワン(温碧霞)。

講座も半ばにさしかかり、この日の本題とも言える質問が暉峻PDから飛び出しました。

「なぜ、突然香港のメジャー映画会社EMPでメジャー映画デビューを果たせたのですか?」

リム監督が『マジック&ロス』のワールドプレミアで釜山国際映画祭(BIFF)を訪れた2010年に再会したフレディ・ウォン(黄国兆)氏は、かつて香港国際映画祭プログラマーを長年務め、映画評論家としても有名な映画人。監督デビュー作『酒徒』(原作はラウ・イーチョン(劉以鬯)。ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の『花様年華』『2046』もラウ氏の小説からインスピレーションを受けている。)でBIFFに参加していたそうです。『酒徒』を観たリム監督は、同作に出演していたアイリーン・ワンさんの演技が非常に印象に残り、2012年にアイリーンさんに初めて会ったとき「あなたを主役に映画を撮りたい」とアプローチしたのだとか。実は、リム監督はアイリーンさんの昔からのファンだったそうです。

映画には興味を示しながらも、主演を務めることに乗り気ではなかったアイリーンさんですが、リム監督の『新世界の夜明け』のDVDを観て気に入ったことが次の段階に繋がったそうです。

リム監督が『Fly Me to Minami~恋するミナミ』完成後に、「中年の女性の欲望を映画に撮りたい」とアイリーンさんを主演に想定した脚本を書いていた頃、アイリーンさんはEMPに所属し、映画制作部門のトップにも影響を与えるほどになっていたそうです。リム監督がEMPに脚本を持ち込んだところ、アート系の内容なので商業的に難しいと判断されたそうですが、アイリーンさんが味方についてくれ、後に制作資金を集めるための会社まで作り、プロデューサーとなるに至ったそうです。

無事公開を果たすためにおとずれたいくつもの試練とは?

◎スケジュールや予算の葛藤

中国との合作映画の場合、検閲に最低でも3カ月かかるほか、撮影許可や上映許可を得るにもかなりの時間が必要とのこと。さらに、本作では撮影許可の申請中に香港で傘革命が起こり、その影響のせいか、審査が通常以上に時間がかかるなど厳しいスケジュールだったそうですが、そこは裏技を駆使し、なんとか乗り切ったそうです。OAFF2016でやむなく上映中止となった香港中国合作映画『爪切りロマンス』も中国側の審査に時間がかかってしまったようだと暉峻PDからも説明がありました。

また、当初、風光明媚な雲南省のシャングリラを舞台に脚本を書いていたリム監督ですが、シャングリラは予算的にもスケジュール的にも厳しく、また治安の問題もあり、ロケは不可能な状態。結局、舞台を桂林と上海に変え、なんとその撮影を広州で行ったとか。タイトルも『シャングリラの恋』から『愛在深秋』に変わってしまったそうです。

◎上映許可の前に、待ち構えた「技術審査」

上映許可を得るためには、まず「技術審査」を通らなければならないそうです。技術審査を通ったあと、やっと最後の仕上げ作業に入り、いわゆる“完パケ”をしてからもう一度検閲に出し、そこでやっと“ドラゴンマーク”(国家新聞出版広電総局の検閲済みマーク)をもらって、上映許可を得るという流れ。技術審査を通った時点で、基本的には上映許可が問題なく降りるということですが、もし技術審査が通らなければ、いろいろな修正を要求され、何度も提出しなければならない可能性があるとのこと。技術審査の基準は明文化されているわけではなく、役者が話す北京語(標準語)もその基準の一つ。北京語以外のなまりがあると、吹き替えにしなければならず、『愛在深秋』でアイリーンさんが演じたのが香港の女優の役で、それほど完璧な北京語を要求されなかったことから吹き替えは指示されなかったそうですが、「もし吹き替えを指示されていたら、アイリーンさんに断られていたかもしれない」とリム監督。

技術審査はその他にも、映ってはいけないものや場所が映っていたり、字幕が読みにくかったり、カメラワークがちょっとぶれていたり、なかには役者のメイクが濃すぎてリアリティがないなど、とにかく技術的なレベルのことなら何でも文句を付けられるとのこと。「映画の内容も技術審査に含まれている」とリム監督はその苦労を語られました。

2015年7月に技術審査が終わり、ようやく上映許可がおりるという、中国マーケットを視野にいれた映画ならでは試練の数々が明かされ、非常に貴重な時間となりました。