プレ企画
開催レポート|映画字幕翻訳講座2014 in 大阪大学箕面キャンパス

さる11月13日(木曜日)に大阪アジアン映画祭のプレ企画である映画字幕翻訳講座が、大阪大学との共催で実施されました。当日は少し冷え込んだものの秋晴れの爽やかな空の下、紅葉しはじめた箕面の山を望む美しい阪大・箕面キャンパスの会場に、大阪大学の学生および事前登録をされた一般参加の皆様が多数お集まりになりました。

平日の午後という、学生にとっては授業が有る中、また、一般参加者にとっては時間を自由にとりづらい中、それでも昨年を超える100名近くの人数が集まり、「映画字幕翻訳」というテーマへの関心の高さがうかがわれました。

講師は昨年に引き続き、映画字幕翻訳界の第一人者である堀三郎さん松岡葉子さんのお二人を東京からお招きしました。

堀さんはアテネフランセ文化センターで字幕翻訳プロデューサーとして全国各地の映画祭で字幕投影をされており、この方がいなければ映画祭で字幕上映ができない、と言っても過言ではない存在です。この日も東京国際映画祭、ドイツ映画祭、そして東京フィルメックスと続く秋の映画祭サーキットの合間を縫ってご参加くださいました。

松岡さんはフランス語、英語を中心に幅広く映画翻訳を手掛けられる一方で、東京の映画美学校で教鞭をとられ、また翻訳関連の本をご出版されるなど、まさに字幕翻訳の第一人者です。この日も、以前、教えられた生徒さんが参加されるなど、全国に教え子がいらっしゃいます。

 

初めに、司会を務められた大阪大学大学院言語文化研究科の古川裕先生からご挨拶が有り、その中で、共催で会場をご提供いただいた外国学図書館の学内の取り組みについてご紹介いただきました。

外国学図書館では映画字幕翻訳講座のコラボ企画として「14冊の本棚~映画を見る新しい視点-映画に学ぶ・映画で学ぶ-」という図書展示をしており、また、AVライブラリーでは講師の松岡さんが字幕翻訳に携わった作品をご紹介・展示し、学生が館内閲覧できるようにしていました。この企画は展示した14冊すべてが貸し出されるなど、学生から非常に関心を持たれていたようです。

堀さんからは、実際に映画字幕版を制作するフローについてお話が有りました。ここ数年で劇場のデジタル化が一気に進み、映画館にはフィルム上映の機会が無いところも多い、と言うお話を、実際の写真を見せながら説明されました。

ハリウッドが主導するDCI(Digital Cinema Initiatives)仕様に基づく、映像素材が上映に至るまでのフローを説明された際には、あまりの専門的な内容に戸惑われた人も居たようです。しかし、DCIによって映画祭での字幕制作・上映に大きな負荷がかかっている現状を知り、納得した様子でした。

「DCIはとにかく、違法コピーをされないようにとハリウッドが定めた企画なので、映画祭上映の場合、作品によっては上映国側で字幕が付けられないんです」

そのため、便宜的に現地(日本)で作った字幕と映像をシンクロさせて同時上映する手法が取られている、という事だそうです。

「ハリウッド作品では、作品によっては一面に“秘密”という文字が表示され、映像がほとんど見えない。そのため原語台本からしか字幕翻訳ができないことがあります」

補足するように、そう松岡さんからご説明が有り、参加者一同、翻訳現場の大変さを垣間見た気がしました。

また、松岡さんからは、「翻訳とは原語に忠実に訳することでなく、映像上に使用できる文字数制限の下、いかに端的に表現するかである」という、映画字幕翻訳の神髄についてのご説明が有りました。そのためには翻訳以前の“ハコ書き”“スポッティング”といった作業が非常に重要で、このテクニックこそ字幕翻訳者の腕の良し悪しに関わってくる、ということでした。

堀さんから、「つまり、映画字幕は単なる翻訳ではなく、それ自体が映画の演出の一つなのです」との説明を受け、皆、一同に納得した様子でした。

 

 

10分間の休憩をはさみ、参加者全員が実技を行いました。不朽の名作『ローマの休日』の映像を使って、実際の字幕翻訳で使われる“スポッティング・リスト”を用い、各々が苦心して短い文字数で字幕翻訳を試みました。そして、翻訳した参加者全員分のペーパーを堀さん、松岡さんが別室にこもって短時間で添削されました。

最後にお二人が、提出された中から優秀な翻訳を数点読み上げ講評されました。紹介された参加者の方々は、字幕翻訳の第一人者たちの評価を受け、とても感激されていました。

なお、お二人が提出物を添削されている間に、古川先生のご紹介の元、大阪アジアン映画祭運営事務局からお知らせとお願いをいたしました。

「大阪アジアン映画祭はこの字幕講座のような市民参加のプログラムが有る事で、(補助を受けている大阪市から)大きく評価を受けています。3月の大阪アジアン映画祭本番にも、ぜひ“参加”していただき、会場で沢山映画を見に来てください」

更に、恒例になっている“字幕ボランティア”の募集が行われました。

「自分が映画字幕の翻訳に携わった映画を劇場で見られるチャンスなんて、一生のうちになかなか無い機会ですよ」

古川先生からも、そう強くフォローしていただきました。そのおかげもあってか、講座の後のアンケートでは、数多くの方々から字幕翻訳ボランティアの申請をいただくことができました。