プレ企画|大阪アジアン映画祭・特別ゼミナール(全6回)
第5回開催レポート|2015年1月12日@大阪歴史博物館

2015年最初の講座となった特別ゼミナール第5回。昨年は、映画祭プログラミング作業の忙しさに、年賀状すら書けないとのぼやき節が飛び出した暉峻プログラミング・ディレクター(以下暉峻PD)。今年は、「せめて髪の毛ぐらいは切りたかったのですが・・・映画祭が始まるまでにはすっきりしますので」とややワイルド味を帯びたヘアスタイルで笑いを誘う年始の挨拶となりました。こちらも恒例となった「お正月における海外での新作鑑賞」については、受講生の方が多数挙手してくださり、ミャンマー映画やシンガポール映画『非常婚事』、台湾で今大ヒットしている『極光之愛』、長澤まさみ、金城武出演のジョン・ウー監督最新作『太平輪』、新たなシーンが加わったと話題のウォン・カーウァイ監督『グランドマスター3D』、釜山国際映画祭オープニング上映されたイーサン・ルアン主演の『軍中楽園』と最新アジア映画情報を続々報告していただきました。

今回の講義は、前回に引き続き東京国際映画祭(TIFF)釜山国際映画祭(BIFF)の違いについて。前回のおさらいとして、BIFFは「アジア映画とマイノリティのための映画祭であり続ける、初期から変わらない志」を持っていることが、世界的な評価を年々高めている要因であることを確認し、その詳細を分析していきました。

 

■BIFFでワールドプレミア上映された行定監督最新作『真夜中の五分前』

 

話題性のなかった映画をオープニングやクロージングであえて取り上げる傍ら、話題性たっぷりの映画がしばしば地味に上映されるというBIFF。その文脈の中で紹介されたのが、BIFFでワールドプレミア上映された行定監督最新作の『真夜中の五分前』でした。レッドカーペットにふさわしいスターが主演し、監督の行定勲はBIFFの企画によるオムニバス映画『カメリヤ』にも参加した釜山と強い結びつきがある作家ですが、それでも本作はオープニング枠等特別な箔をつけることなく、一般的な扱いで上映されたことに触れた暉峻PD。作品自体については「『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』とは全く違う才能を発揮。一番違うのはリズムで、本作は非常に腰の据わった感じがする。行定監督の作家性がもっとも発揮された一本」と評価されました。『GF*BF』『失魂』のジョセフ・チャンも出演しています。

 

■BIFFとTIFFの違いは「部門設計のうまさ」にも現れている

 

TIFFは地味だという声が多く聞かれる中、「作品の地味さでは、BIFFの方がはるかに勝っている」としながら、地味さを感じさせずに変わらぬ志を貫くことができるポイントとして部門設計のうまさを挙げた暉峻PD。通常映画祭の一番メインに位置づけられるコンペティション部門は、マスコミが映画祭でも一番話題にする部門ですが、BIFFはあえてコンペティション部門をメインに位置づけず、アジア映画の窓部門をメインに据えています。どんなに強力な欧米作品がラインナップされても、カタログやチラシではあくまで後半部分に掲載し、メインではないことを示しています。

二番目の位置づけとなるのが、ニュー・カレントと呼ばれるコンペティション部門。対象はアジア映画であり、かつ監督作が二本目までの人と決められているため、たいていは無名の監督の知られざる作品が入選します。昨年はキム・デファン監督(韓国)の『End of Winter』、ホーマン・スエリー監督(イラン)の『13』がニュー・カレント賞を受賞しました。

また、BIFFでは決してメジャーとはいえない監督や国の地味なテーマを扱った作品がオープニングやクロージング上映作品に選ばれてもチケットがすぐに売り切れてしまう現象は、韓国の映画教育水準や、一般に共有されている国民の映画的知識や教養の高さにも起因するようです。映画監督でもあるイ・チャンドン氏が文化観光部トップを務めていた頃から、韓国では高校で映画科目が選択でき、また数多くの総合大学が映画専門の学科を設けていました。映画が美術や音楽と同様の学問として広く認知されている韓国と、ようやく一部の大学で映画教育が行われるようになった日本。単にBIFFとTIFFを比較するのはむしろ雑な議論であり、国民的な教育や教養の問題も加味して考えなければいけないと指摘した暉峻PD。最後に「BIFFは最初から戦略が一貫。なにが起きても揺るがずに基本ポリシーを守っているのが映画祭を批判されない理由」と改めて強調し、講座を締めくくりました。

最終回となる次回では、第10回大阪アジアン映画祭のラインナップと解説を行う予定です。ご期待ください!

 

 

大阪アジアン映画祭特別ゼミナール第6回は2月1日(日)に開催いたします。