プレ企画

大阪アジアン映画祭・連続ゼミナール

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第4回開催レポート(2015年12月20日@大阪国際交流センター)

2016年3月に開催する「第11回大阪アジアン映画祭」のプレ企画、「大阪アジアン映画祭・連続ゼミナール」第4回。暉峻プログラミング・ディレクター(暉峻PD)から、釜山国際映画祭(BIFF)の分析と絡めながら第10回大阪アジアン映画祭(OAFF)オープニング作品選考についての解説もあり、2015年を締めくくるにふさわしい内容となりました。

『20歳よ、もう一度』字幕担当木村氏に聞く、字幕と吹き替え、留意点の違いは?

本ゼミナールの受講生、木村佳名子氏より、字幕翻訳、吹き替え翻訳を担当された『20歳よ、もう一度』(2016年1月20日にDVDおよびブルーレイが発売)のご紹介がありました。

『20歳よ、もう一度』

過去には『GF*BF』の字幕や『捜査官X』の吹き替え版も担当されている木村氏。韓国で大ヒットした『怪しい彼女』は、元々韓国と中国で同時に作る企画だったそうで、一年遅れて中国で完成した作品が『20歳よ、もう一度』です。監督は『101回目のプロポーズ ~SAY YES~』(原題:101次求婚)のレスト・チェン (Leste Chen/陳正道)。自ら見出したネット小説家を中国側の脚本家に据え、韓国から来た脚本を70か所以上書き直して、ゴーストタウンや中高年たちが広場で踊る様子など、今の中国の旬の姿を挿入しているのも見どころです。吹き替えでは、主演に女優の折井あゆみをキャスティング。おばあちゃん役の大ベテラン、沢田敏子から演技のバトンを引き継ぐシーンも堂々とこなし、見事な初主演ぶりをみせています。暉峻PDからは、本作にはその後、ベトナム、タイなど東南アジア圏のリメイク版も控えていることの紹介もありました

字幕と吹き替えの両方を手掛けている木村氏にその違いを伺うと、「字幕は入れられる情報がとても少ないので、自分の頭できちんと整理し、必要なものを組み立てていく。吹き替えは尺があるので、そのまま素直に訳せて再現性は高い。むしろ気を使うのは技術面。元の芝居に台詞がのっているか。ちゃんと話し言葉が書けているか。役者に合うテンポで書けているかに留意している」のだそうです。字幕のみならず、吹き替えもぜひお楽しみください!

『20歳よ、もう一度』公式HP http://20again-movie.jp/

オープニング作品『白河夜船』に込められた意図~BIFFも含めたOAFF2015総括

暉峻PDより、昨年の連続ゼミナール第4回で取り上げた釜山国際映画祭(BIFF)がアジアで急速に台頭しえた理由に再び触れながら、OAFF2015オープニング作品に『白河夜船』を選んだ意図が解説されました。

→ 釜山国際映画祭が短期間に成長を遂げた理由は? http://www.oaff.jp/2015/ja/pre/20141207.html

BIFFがアジア映画のために行う映画祭であること、マイノリティ(作家、作品)がビッグになるための場所であることを貫いていることが成長を遂げた理由とした暉峻PD。特に、オープニング作品やクロージング作品では、一本はメジャー級作品を入れる一方、もう一本はここで選ばれなければ誰も知らないような作品を選定していることに着目し、OAFF2015の選定にも取り入れたそうです。

クロージングの『国際市場で逢いましょう』が韓国映画史上最大級のヒット作になったこともあり、オープニングではOAFFに出品したからこそ世間で広く知られる映画をと選んだのが『白河夜船』。撮影日数も5日間で、普通のデジカメで監督自らが撮影し、「今回のOAFFで最もこじんまりと作られた映画」としながら、そのような小規模映画をオープニング作品として上映することがもたらす効果について解説しました。

オープニング作品に据えると、地下鉄全路線でタイトル入り中吊りポスター、オープニングイベント登壇など、普通なら誰にも知られずひっそり上映されて終わっていた作品が、人の目に触れ、興味を持つ人がでてくる可能性があること。オープニング上映という場は、行政、スポンサーなど通常の映画ファンとは違う方が揃うため、そのような人たちに一般的にシネコンで上映されるような映画とは違う映画を紹介できることなどを挙げ、「映画祭のためでもあり、観客を育てていくという方向でもいくつか効果がある」と結びました。

第20回を迎えたBIFFは、さらにその思想をラディカルに表現

第20回を迎えた2015年のBIFFについての考察も述べられました。例年より派手な回となることを期待する人もいましたが、実際にはこれまでの思想をさらにラディカルに表現する作品選定が行われていました。オープニング作品はインド映画の『Zubaan』。日本でもスマッシュヒットした『めぐり逢わせのお弁当』のプロデューサーの一人だったグニート・モンガーが中心となり、初長編となるモーゼス・シン監督を起用した作品ですが、典型的インド映画のような大スター起用もなく、ここで上映されなければ誰も知らないと思われるような作品です。また、クロージング作品はラリー・ヤン監督作の中国映画『Mountain Cry』(原題:喊山)。こちらも監督、出演者共に話題性はなく、非常に挑戦的な作品選定となっていると分析しました。同年のTIFF(オープニング作品にロバート・ゼメキス監督の『ザ・ウォーク』、クロージング作品に篠原哲雄監督の『起終点駅 ターミナル』)がアメリカと日本からメジャー作を持ってきただけで、それ以上の思想が表現されていないとし、成長できる映画祭とそうでない映画祭の違いが表れていると指摘。OAFF2016ではどんな作品が開閉幕作に選ばれるのか、期待を持たせました。

最後に、BIFFのオープニングでは司会者にもひと工夫あったことに触れ、男性司会者がソン・ガンホ、女性司会者はアフガニスタン女優のマリナ・ゴルバハーリ(『アフガン零年』主演女優)であったことを紹介しました。ゴルバハーリさんは、タリバン政権下でアフガンが一番混乱している頃に生まれ、学校教育もきちんと受けられない中『アフガン零年』に出演、その後も女優を続けている方で、「こういう趣向がなければ、彼女のことは海外では忘れられてしまっていたかもしれない。こういうことをやるのも映画祭の大きな役割ではないか。OAFFでもいずれ司会者の起用法についても考えていきたい」と抱負を述べました。