第12回大阪アジアン映画祭|プレ企画

大阪アジアン映画祭連続ゼミナール

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第2回開催レポート(2016年10月22日@大阪国際交流センター)

2017年3月に開催する「第12回大阪アジアン映画祭」のプレ企画、「大阪アジアン映画祭・連続ゼミナール」第2回。珍しく土曜開催となったこの日、暉峻プログラミング・ディレクター(以下、暉峻PD)は大阪で土曜の晩に宿を取る大変さをぼやく一方、11月に開催の大阪韓国映画祭、京都ヒストリカ国際映画祭の充実ぶりに触れるオープニングトークを展開しました。

今回のメインテーマは、「プチョン国際ファンタスティック映画祭(以下、BiFan)の躍進に見る、映画祭の独自性、独立性」。まずは、昨年BiFanの見どころを発表していただいた受講生の三澤政之さんより、受講生の皆さんにとお土産で持参いただいたBiFanの公式ガイドブックを回覧しながら、今年の傾向を話していただきました。上映本数が320本(短編を含む)と昨年比2割増となり、会場が増えて劇場の混雑が緩和されたそうです。

大阪アジアン映画祭連続ゼミナール・第1回開催レポート

今年の新企画で面白かったのが、〈ベスト・オブ・アジア〉。アジア各国の観客動員数ベスト3を上映。日本だけはアニメ2本とテレビドラマの劇場版という異質な作品だったのが、非常に目立ったのだとか。三澤さんのお話を受けて、暉峻PDより、上映本数では釜山を抜き韓国最大規模となったBiFanについて、釜山国際映画祭(以下、BIFF)と比較して今年の傾向が語られました。

大阪アジアン映画祭連続ゼミナール・第1回開催レポート大阪アジアン映画祭連続ゼミナール・第1回開催レポート

構造面での大きな変化|映画祭の組織委員長は市長という慣習に、初めて終止符を打つ

韓国の映画祭は、伝統的に市長が組織委員長を兼ねていましたが、BIFFでセウォル号沈没事故を扱ったドキュメンタリ-『ダイビング・ベル』を市長が望ましくないとして上映中止を求めたことから、行政の長が映画祭のプログラミングに意見をすることは言論弾圧だと大きな議論が巻き起こりました。映画人たちのボイコットが相次ぎ、開催が危ぶまれた時期もあったBIFF。 結果的には今年も例年通りの規模で開催されましたが、映画人と映画祭の間の不信感は拭えず、スターや名監督がレッドカーペットに登場することもないさびしい結果。観客は27%減、業界人は一気に40%減に終わったそうです。

一方、今年のBiFanはBIFFの状況を鑑みて、韓国の地元市長が映画祭組織委員長になるという慣習に終止符を打ちました。市長が自ら退任し、新組織委員長として『ホワイト・バッジ』『南営洞1985〜国家暴力:22日間の記録〜』チョン・ジヨン監督を迎え入れたのです。韓国の主要国際映画祭の中で初めて映画の現場の人材をトップに迎え入れたことで、BiFanは「組織改革に先手を打った」と注目されています。 ちなみに、暉峻PD曰く「チョン・ジヨン監督は90年代末、韓国のスクリーンクォータ制を、保護主義ではなく文化の多様性を守るという観点から意義を強調。業界人を一体化させ、同制度の維持に尽力した“闘う映画人”で、信頼も厚い。まさに適任」なのだとか。

画期的なプログラミング|前年度観客動員トップ3を上映する〈ベスト・オブ・アジア〉

プログラミング・ディレクター(PD)目線で「画期的かつ奇跡的」と評したのが、BiFanの新プログラム〈ベスト・オブ・アジア〉。その理由として、暉峻PDは「普通はPDが良い作品を選んで上映するのが映画祭と信じられているが、その常識を捨て去り、作品の出来は一切問わず、単純に前年観客動員トップ3を選んでいる」とし、その結果、他映画祭ではなかなか上映されない作品がラインナップされることを強調しました。また、さらに裏方的目線で奇跡的だと思う理由として、そもそも自国マーケット向け映画として制作、大ヒットした作品だけに、製作者側は国際映画祭出品に関心が低いとし、それにもかかわらず難しい交渉をやり遂げての実現を高く評価。今後も是非続けてほしいと絶賛されました。『暗殺』『私の少女時代 -Our Times-』『フリーランス』『ベトナムの怪しい彼女』『ホイにオマカセ』『草原に黄色い花を見つける』などOAFF上映作品も多数含まれているので、要チェックですよ!

ちなみに、単に上映するだけではなく、アジア各国の2015年の映画界の傾向について分析した本(英語、韓国語)が無料で配布されているそうです。日本映画の分析文を執筆した暉峻PDは、「アジア各国の中で日本のヒット作の傾向は、異様。 その対局が韓国で、上位10本を見ても、観客が自国の歴史や社会について知識を持っていることを前提とした作品が圧倒的にヒット。一言でいえば大人向けである。日本は対極的で、悪い言葉でいえば、お子さま向け。観客の知的レベルを期待しないで企画されたものがヒットしている」。単純に並べてみるだけでも、日本と他アジア国とのヒットする映画の質の違いが歴然としていました。

今年のOAFFを振り返る~正当に評価されなかった作品にも光を当てたコンペ部門

例年恒例となった、その年のOAFFを振り返る趣向では、第11回OAFFを回顧する特別映像を見ながら、コンペ部門入選の基準について暉峻PDが説明しました。基本は、評価が定まっていない、出来立てほやほやの作品であり、映画界に認知されていない新人監督、または評価が未定着である監督の作品を選択。また別の価値観として「現地公開時に不当にコケてしまったり無視された、海外の国際映画祭や現地でも正当に評価されなかったものに再評価の機会を与える」という基準からも選出していることも明かし、今年グランプリを獲得したチャン・ムニル監督(韓国)の『豚のような女』や、ベニー・ラウ監督(香港)の『王家欣 ウォン・カーヤン』、ジャン・フォンホン監督(台湾)の『欠けてる一族』をその例として挙げました。他にも、チケット発売直前に上映中止となった作品の今だから話せる裏事情も「ここだけの話」として披露した暉峻PD。語り足りない様子でしたが、ここでタイムオーバー、第2回のゼミナールを終了しました。