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ビッグネームも惚れた!人、本来の姿をむき出しにするアート作『ヘマヘマ:待っている時に歌を』

《特別招待作品部門》『ヘマヘマ:待っている時に歌を』の上映後、プロデューサーのパウォ・ドルジさんが登壇されました。

まずは「観客からのサポートがとても重要で、観客からの反応がないとアーティストはよい作品がつくれないものです。インスピレーションを与えてくれ、支えてくれる皆さんに感謝し、この映画祭の観客の皆さんにお礼を申しあげます」と挨拶されました。

作品については「ほとんどがアマチュアのスタッフ、出演者で作られていて、ビッグスターのトニー・レオンの綴りを間違えるようなこともあるほど、映画制作になれていない人たちとつくり上げました」と語り、ブータンでは制作支援を受けられず、作品自体も上映禁止となっていることを明かしました。

本作で一瞬、顔出しをする役を演じるトニー・レオンへの出演依頼は「『お金も名声もあるのは知っているが、アートを作りたいので出て欲しい』という要請に応えてくれたもの。ギャラも、撮影中の滞在費、旅費なども満足に出せない状態の上、せりふもなく顔もほんの数秒しか映らない条件でも、このキャラクターに惚れて献身してくれました。そして他の俳優にも出演依頼の手紙まで書いてくれたのです。とにかく彼には特にお礼を言いたい」と熱く語られました。

他の出演者も多くがアマチュアで、豆腐屋、建設業など多彩。「女性に出演交渉するとき断られると思いながら『顔はほとんど映らない、せりふもない。でもお尻は映ります』と言うと、あるフライトアテンダントが快諾してくれました」とパウォ・ドルジさん。

「オンラインチャットなどで別の自分になり、デジタルマスクをつけることでフリーになり勇気が出て、本当の自分が出る。主人公は普段は規律を守った生活をしているが、マスクをつけると、自分の欲望を抑えることができない。主人公は偶然とはいえ、レイプや殺人までしてしまう。本当の自分はマスクをつけなければ出てこないのです」と話すパウォ・ドルジさん。まさに本作のテーマだと語られた“アイデンティティ”を考える1作品となりました。

2作品の監督、キャストが登壇!『息ぎれの恋人たち』『ピンパン』

この時間、《インディ・フォーラム部門》『息ぎれの恋人たち』清水俊平監督、特集企画《アジアの失職、求職、労働現場》『ピンパン』田中羊一監督、出演の石橋征太郎さんが登壇されました。

この日が世界初上映となった『息ぎれの恋人たち』の清水俊平監督は「3年前に映画を撮ってからなかなか撮れずにいたんですけど、この新作が今日はみなさんに観ていただけ、感謝しております」と挨拶。

続いて、『ピンパン』の田中羊一監督は「本日はご来場いただいてありがとうございました。この映画は中国人女性が出てくることもあり、“アジアン”と冠のつく映画祭で上映出来たことを光栄に思っています」と述べられました。そして、「中国人の女性とごちゃごちゃしていた男を演じていました、石橋征太郎です」と挨拶されたのは『ピンパン』にご出演の石橋さん。

『息ぎれの恋人たち』は大阪を拠点に大学院における映像研究の助成を行っている芳泉文化財団のサポートを受け制作された作品。撮影には、北野武監督作品でもおなじみの日本を代表する柳島克己さんが担当されています。それについて清水俊平監督は「学生時代、撮影分野の教授が柳島さんだったんです。僕がサラリーマンを辞めて映画を撮り始めたのは3年前なのですが、ずっと北野武監督作品や柳島さんの撮った映画が好きで。今回無理を言ってお願いしました。学生のスタッフに混じってすごくフランクにつきあってくれたことが、とても嬉しかったです」と語りました。

また、キャスティングについて「黒田大輔さんと篠原篤さん、お二人とも橋口亮輔監督の『恋人たち』での演技が印象的で、黒田さんは、以前も短い作品に出ていただいていて、篠原さんは主演の吉村くんの紹介でして。自分の身の回りの方に声をかけて出来たご縁でキャスティングできました」と話されました。

『ピンパン』田中羊一監督

『ピンパン』出演:石橋征太郎さん

続いて質問は『ピンパン』へ。キャスティングについて問われるとの田中羊一監督は「主演の柳英里紗さんは、神奈川県大会で上位の方までいったという、もともと卓球は上手な方だったので、それも込みでオファーをしました」とのこと。また『ピンパン』が劇中、中国語の台詞をあえて訳さずに進行していった点について「あれはもう単純に“一緒に卓球をしよう”と言っているのですが。相手がなにかコミュニケーションを取ろうとしてきて、それに主人公が卓球で応えたということで、字幕にする必要はないと思ったのです」と田中監督。

それぞれの監督たちが映画制作において大切にしていることが少し垣間見られた時間でした。

監督と家族の信頼関係もみえた温かな時間『海の彼方』

《特別招待作品部門》『海の彼方』の上映後、黄インイク監督とご出演、またナレーションも担当されたSEX MACHINEGUNSのベーシストとして活躍中の玉木慎吾さんが登壇されました。

「今日は日本初上映ということで、お越しいただきありがとうございます」と黄インイク監督がご挨拶。作品の中心となる、玉木おばあ、のお孫さんである玉木慎吾さんは「おばあちゃんはお元気ですか?」と問われ「おばあちゃんは、2月9日に90歳になりましたが、まだ『そういう運命ではない』(映画の中でおばあちゃんが言った言葉)ようです。映画の時より今の方が元気なぐらいです」と嬉しい近況報告をされました。

黄インイク監督

玉木慎吾さん

本作制作の経緯について黄監督は「2013年からフィールドワークで、150人以上の方にインタビュー。それで1年を費やしました。2014年から『狂山之海』シリーズ3部作として企画。その第一弾が今作です。まさに、八重山に台湾人がいることを伝えたかった。主人公を選ぶときに大家族であり、本当に少なくなった移民1世の方に焦点をあてたかった。そこで玉木家を選び、家族の個人個人にインタビューを始めました。2015年からは家族に密着しました」と語られました。

昨年の映画祭でオープニング上映され、その後、一般公開もされた『湾生回家』とのつながりや影響について聞かれると「実際『湾生回家』は観てないんです」と黄監督。「この映画を撮影していた2015年頃は、みんな台湾のルーツを知りたいという動きが活発になっていた時期だったからだと思います。他にも、戦後中国から台湾に入ってきた人々が中国へ里帰りする話の映画などもあります。私たちは、そんないろんな動きがある中の一つです」と述べられました。

劇中、一緒に台湾に里帰りをすることになった玉木慎吾さん。「僕は、おばあちゃんが中国語をしゃべれないということも知らなかった。一緒に台湾に行って、そのことを知り驚きました」と話されたことをうけ、黄監督は「今の台湾の人が話していたのは戦後入ってきた中国語(北京語)だったので、わからなかったのです。八重山の移民は、完全に台湾語(今は方言扱い)しかしゃべれない状態の人たち。その人たちは、今の台湾の人とは違う、純粋な戦前の台湾人のアイデンティティを持っています」と説明されました。

本作は、最後、娘たちが歌う森昌子さんの「おかあさん」で結ばれます。黄監督は「いくつかのバージョンがあり、最初は慎吾さんがおばあちゃんのためにつくった曲をあてていましたが、編集を進めていく中で構成も変わっていって。そんな中で家族から提供されたホームビデオの中に4人姉妹が歌うシーンを見つけて、これが良いと思い使いました」とのこと。それをうけ、玉木慎吾さんは「僕としては、最後におばあちゃんのお祝いの会で姉妹4人が歌ったのは、自然発生的になったこと。だから、この方が意義あるシーンじゃないかなと納得しました」とコメント。

スクリーンを超えて大家族に再会できたような、あたたかな空気のひろがる時間となりました。

監督の人間観察の蓄積が、人間の滑稽さを浮き彫りにした『たまゆらのマリ子』

《インディ・フォーラム部門》『たまゆらのマリ子』の上映前に、瀬川浩志監督、ご出演の南波美沙さんが登場。瀬川監督は「京都出身なので関西で上映出来る機会を得られて嬉しい。ジャンルの特定が難しく、見る人によって感想も異なる作品。上映後にぶつけて欲しい」とコメント。南波美沙さんは「初めて見るので観客の皆さんと一緒に楽しみたい」と挨拶されました。

上映後、改めてお二人がご登壇されました。初めて観た南波美沙さんに感想を尋ねると「まだまとまってはいないが、マリコみたいにキレてみたい」と素直なお答えが。また「監督はどうやって女性の気持ちを理解するのだろう?どうにもならないことや苛々が重なる時の女性の気持ちがしっかり捉えられていて…」と感想を述べられました。

これに対して瀬川監督は、主演の牛尾千聖さんにも同様のことを言われたと暴露。「多分、もともと女子っぽいところがあるのかも。入念に調べたというわけではないけれど、人間を黙って観察するのでその蓄積もあるかもしれません」との自己分析。

瀬川浩志監督

南波美沙さん

南波美沙さんは、オーディションで主人公の役を受けた際「こういうマリコもありかな〜」という監督の呟きが記憶に残っていることを明かしました。瀬川監督は、「印象に残る方で目にとまったので、結果別の役ですがオファーしたのです」とのこと。

今までのキャリアを振り返り「今作は一番長く、また、難産だった」と語られた瀬川監督。完成までには「シナリオの構想を練るのに3ヶ月、書いたのが1、2週間。撮影自体は、役者が30人も出ているので、10日で終わらせて、編集で1年以上かかりました」と詳しく教えて下さいました。

上映中は会場から笑い声が漏れる場面も。瀬川監督ご自身は「コメディとしてはつくっていない」と明言。しかし同時に「がちがちに狙ったわけでではないですが、無我夢中で周りが見えていない人が、時にどこか滑稽に見えるという確信めいたものは持っています」と、お話しに。続編について聞かれると、「ひとりひとり、描かれていない部分も多い。妄想している自分もいるし、歳をとるごとに、人間を描くことが好きになっているから」と話され、今後に期待を持ちつつこの時間は終わりました。

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