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開催レポート 7日目

3月9日(木) vol.4 シンポジウム

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多様な要素を含むマレーシア映画の今を語り合ったシンポジウム

今年のシンポジウムは「ハードボイルド刑事とレディー・クンフー:マレーシア映画の新地平」と題し、《オープニング作品》『ミセスK』ホー・ユーハン(何宇恆)監督と《コンペティション部門》『インターチェンジ』デイン・イスカンダル・サイード監督、そしてモデレーターとして山本博之氏(京都大学東南アジア地域研究研究所)が登壇しました。

最初に山本氏より「ホー・ユーハン監督は、間合いの魔術師と呼ばれ、デイン・イスカンダル・サイード監督は誰も書いたことのない物語を描く作家といわれます」と紹介。「ホー・ユーハン監督は6年間、長編映画の監督をしていない空白の期間がありましたが」との問いに「ヤスミン・アフマド監督の『タレンタイム』で審査員役をしたり、『ナレシマ2.0』(OAFF2012)で仙人役をしていたり。デイン・イスカンダル・サイード監督の『ブノハン』で殺される役をしていました」とホー・ユーハン監督。デイン・イスカンダル・サイード監督には今年上映されている『ミセスK』で「一番いい役を差し上げました」ともコメント。実際、殺される役を演じていらっしゃいます。

★「ミセスK」の謎

『ミセスK』は母と娘の物語ですね、の投げかけに「この作品では多くの男性の極悪人が登場するので、娘がいいのでは?ということになったのです」とホー・ユーハン監督。また、“場所”が曖昧にされている点について監督は「脚本を考えているとき西部劇のように、特定の場所を示唆しないことを参考にしました。また、多くのマレーシアの映画は、意図的にクアラルンプールの景観を押し出すことが多いことに対抗したかった。そして、家は家として、人は人として映したかった。内的な心象、風景を映すようにしたのです」と物語の背景に込めた気持ちを語られました。

★「インターチェンジ」の謎

前作『ブノハン』では、スタイリッシュに殺す姿を描き、マレーシア東海岸が舞台に。一方『インターチェンジ』は、標準語、宗教規範の強化、経済開発の波に覆われつつあるローカルカルチャーの危機を描いています。デイン・イスカンダル・サイード監督は「本作は、ボルネオでは展開せず、特にどの土地か明かしていません。ホー・ユーハン監督と理由は違います。マレーシアにはアミニズムやスピリチュアリズムが元々あったが、それを否定する動きがあります。そういったことを信仰すると、反イスラムと考えられてしまいます。私は、マレーシアが『先進国になったんだ!』と出すのが嫌なのです。マレーシアを全面的に出すと、マレーシアvs部族といったとらえ方をされてしまいます。インドネシア、マレーシア、フィリピンには、たくさんの部族が住んでいるが、映画の世界から離されてきていました。私は、マレーの人と先住民の人を近づけようとしているわけではないけれど、彼らの物語を歴史上の物語から語りたいと思っているのです」と話されました。

また「この映画で、歌手シェラがイスラム的な服装をしている唯一の人物なのはなぜですか」の問いに「歌手の起用は、トランスジェンダーの映画ばかりとる友人からのヒント。その友人の作品は、上映禁止になったこともあります。それぐらいマレーシアは厳しいのです。ホー・ユーハンの映画で神父役を頼まれたが、プロデューサーに止められた。マレーシアでは、自分はマレー系でムスリムと考えられているから。私はそれを馬鹿らしいと思っている。だが、これがマレーシアの状況なのです」とデイン・イスカンダル・サイード監督は解説されました。

そして、ホー・ユーハン監督は「映画は、現代の神話をすぐに共有できるメディアではないかと考えます」とまとめられ、これからのマレーシア映画の更なる多様性を予感しつつシンポジウムは終了しました。

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