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監督の形にしたかったことが観客に通じた『アイニ向カッテ』

《インディ・フォーラム部門》『アイニ向カッテ』の世界初上映後、高山康平監督、主演の田中一平さん、向有美さんが登壇されました。

夢や過去に翻弄される男の姿を通じて、“愛”について問いかける人間ドラマ。タイトルを漢字ではなくカタカナにした意図を聞かれた高山康平監督は「漢字で書くとなんとなく重い感じがする。カタカナにすることで、むしろぎこちなさを出したかった」とのこと。また、緊迫感のある作品づくりへのこだわりの一つとして印象的だった音について、監督は「即興的に、映画を邪魔しないように入れました」と明かされました。

高山康平監督

田中一平さん

出ずっぱりで、アルコール依存症の男性を演じた田中一平さんは「愛があるときも苦しみ、愛がなくなっても苦しいというのが印象的でした」と観客のように感想を言う自分に自らツッコミを入れたあと、「銅像を舐めるとか、水に入るなど、負荷のかかるシーンでは現場全体に何かスイッチが入ったように感じた」と撮影を振り返られました。

向有美さん

その主人公に、ずっと問いかける女性を演じた向有美さんは、「問いかけるけど相手は答えてくれない、という役どころだったので、精神的につらかったですね」と撮影時の様子を話されました。また、脚本を読んだ段階で、監督からその役について「文鎮みたいな女性をやってくれ」と言われたというエピソードを披露。それを聞いた高山康平監督は「そんなこと言ったかな(笑)」と返すと客席からも笑いが。共依存の関係を描いているように思ったという客席からの感想について監督は「愛と共依存とは何が違うのか、ということは脚本を書きながら考えていたことのひとつです。」と語られ、つくり手と観る者が共振した時間となりました。

製作にまつわる裏話に花さいた、世界初上映『TOURISM』

《インディ・フォーラム部門》『TOURISM』宮崎大祐監督が、昨年に引き続き映画祭登場。去年上映した『大和(カリフォルニア)』の劇場公開が決まったこともあり、凱旋ムード溢れる活気あるQ&Aの時間となりました。

シンガポール国際映画祭とシンガポールの美術館「アート・サイエンス・ミュージアム」による共同プロジェクトとして製作された本作。宮崎大祐監督曰く「最初は“日本で短編映画を撮ってほしい“と言われたので、“じゃあシンガポールで短編映画を撮っていいですか?”と質問したところ“いいですよ”と返答があったので、シンガポールへ行って長編映画を撮りました」とユーモラスに製作の経緯を明らかに。

観客から本作の意図についてたずねられると、自身が初めてシンガポールへ旅行したエピソードを披露。「スコールで携帯が壊れて、どこを歩いているかわからなくなったんですけど、それがすごく楽しくて。迷子になることで見つかる“何か”ってない?というのがメッセージです」と映画に込めた想いを語られました。

また観客から主演の遠藤新菜さんが本作で共同プロデューサーを務めた経緯について質問されると「遠藤さんは製作もやりたいという意思のある方で、衣装のスポンサーを探してくれるなど、かなり協力してもらいました。頼りになる女優であり製作者でもあります」と主演女優の知られざる活躍にも言及。

さらに観客から劇中で遠藤新菜さんが持っているスマートホンに『大和(カリフォルニア)』のステッカーが貼られていたことを指摘されると監督は「撮影現場でスマートホンにステッカーを貼った彼女から“これやりすぎですか?”と聞かれたんですけど、僕は“誰も気付かないから大丈夫”って言って…」と撮影中の裏話を告白すると場内からは大きな笑いが起こっていました。

見たことのないような映画! 矢崎監督の意欲溢れる『スティルライフオブメモリーズ』

土曜日とはいえ、遅い時間からの上映にも関わらず大盛況となった《インディ・フォーラム部門》『スティルライフオブメモリーズ』。大きな拍手に迎えられ登壇したのは、プロデューサーの伊藤彰彦さん、矢崎仁司監督、出演の松田リマさん、そして本作のもうひとつの主役と言える数々の写真を撮影された中村早さん

開口一番、矢崎仁司監督は「大阪が大好きなんで本当に嬉しいです。あまり見たことないような映画を作ったので、さあ映画の話をしようかっていう感じなんです。この映画のことでなくてもいいので(笑)」と、作品を観客と共有出来た喜びを茶目っ気たっぷりに語られました。

未だに伝説と化しているフランスの画家、アンリ・マッケローニの愛人をモデルにした写真集からインスパイアされたという本作。プロデューサーの伊藤彰彦さんは「マッケローニと彼女に2年間で何があったのかを撮りたいと思いましたし、マッケローニの作品に漂っているようなある種の品格と“死の匂いがする性”を矢崎監督も一貫して描き続けて来られたので、矢崎組の皆様にお願いしました」と話されました。

伊藤彰彦プロデューサー

矢崎仁司監督

『ストロベリーショートケイクス』に続いての安藤政信さんの起用について矢崎仁司監督は「本当に再会のタイミングが良かった」と顔をほころばせました。安藤政信さんは写真家として活動を始めていましたがデジタルカメラが専門だったため、フィルムを扱うために何度も写真家の中村早さんの元に通い、フィルムの巻き方や現像などの指導を受けて撮影に臨んだとのこと。「低予算なのにこんなにしっかり準備をしてくれる姿勢が嬉しくてしょうがなかった。幸せな再会でしたし、また一緒にやりたいなと思う俳優さんです」と彼について語りました。

松田リマさん

中村早さん

また、本作の主役とものなる“写真”について監督は「中村さんの個展を何回も見ていて、この人にお願いしたいと思いました。脚本に反映されている“夕暮れからだんだん闇に溶けてゆく”というのは中村さんの言葉なんです」と作品にも写真家としての中村さんの感性が反映されていることを明かしました。

写真家になって10年以上の経歴を持つという中村早さん。本作への参加する上で一番の要望は“写真の映画”であることだったそうで、「写真がどうやって撮られて、どうやってフィルムが現像されて、どうやってプリントされるかということを映画の表現としてきちんと残していただきたかったのです」と話されました。

劇中、印象的だった螺旋階段をバックにしたダンスで観客を魅了した松田リマさん。新体操の経験からか、身体が異常に柔らかく、そのおかげで変わったオファーが来るそう。「エイリアン役だったり、足の間から頭を出して歩くみたいなクリーチャー役がきたり(笑)。今回初めて体を使った綺麗な動きをさせていただいたので、それが凄く嬉しいです」と、彼女の可憐なイメージとのギャップに会場からも笑いが。

和やかなムードの中、矢崎仁司監督の映画愛溢れるやり取りに会場も引き付けられた時間となりました。

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