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フィリピンの現実を鋭く描きとる若き才能、再来阪!『ネオマニラ』

昨年の『バードショット』に引き続き、《コンペティション部門》、特集企画《祝フィリピン・シネマ100年》『ネオマニラ』をもって、今年もミカイル・レッド監督が登場されました。「みなさん、今日はお越しくださいましてありがとうございます。『ネオマニラ』は日本初上映です。大阪がとても気に入り、またお招きいただき、とてもうれしく思っています」とご挨拶。

現在、26歳にして本作が3作目の監督作品であり、明日から、もう4作目にとりかかるという話に会場からどよめきがおこりました。

『ネオマニラ』の構想は「母親が殺し屋である」という記事を読んだことから始まったそうで「この女性の殺し屋、つまりあるお母さんがBBCのインタビューを受けて記事になっていました。私が撮る映画は、だいたいが本当にあった話からアイディアを得ています。映画の撮影場所も実際に起きた犯罪事件から得たもので、様々なニュースから事件を調べました。実際に麻薬が売買されていた場所とか、マーケットも実際にある所です」とミカイル・レッド監督。

いわゆる「普通のおばさん」が殺人をするという状況は、いつ頃からあるのか、という質問に監督は「もうずっと前から、今の政権の前の政権・・・その前からずっと起きていたことです」と話し、また「『バードショット』もそうですが、“特定の時期”を示さなくても、こういったことは昔からそのままで何も解決されずに、ずっと繰り返し起きている状況なのです」と加えられました。

劇中、群衆が死体にむらがるシーンの撮影方法を問われると「私のルーツはインディペンデントなので、いつも資金はあまりありません。昨年の『バードショット』は資金集めに2年ほどかかったのですが、この『ネオマニラ』のテーマは、ちょうど話題性もあるし、私にとっても非常に重要なもので、早くなんとかしたい、早く作って出したい、という気持ちが強くて去年のうちに作ってしまいたかったのです。それで、予算も充分でないまま撮ることになり11日間の撮影で、ゲリラ的な撮影方法を駆使しました」と前置きされ「マニラの街なかに“死体”を置けば、普通にそこにいた人たちがワァーッと集まってきます。それを撮影します。教会のミサのシーンも、実際に行われていたものをそのまま撮りました」と体当たりの撮影方法を話されました。他にも、実際の警察パトロールに一緒にカメラをもって入ったこともあったとか。また、主役の殺し屋を演じたユーラ・バルデスさんはフィリピンでとても有名な女優なので、すぐに人がどんどん集まってきたそう。

映画のテーマの一つでもある“薬物戦争”についてミカイル・レッド監督は、「薬物を取り締まるだけではなく、いろいろな別の殺人をも混ぜ込んでいるという状況があります。単に死体の上に“カード”を載せて “薬物中毒者”だとか”売人“だとか書けば、個人的ないさかいの殺人であっても“薬物関連”として片付けられる、そのような状況なのです」と話されました。

現実を見据える考察力と行動力で映画づくりをするミカイル・レッド監督のお話に会場はすっかりのみこまれてしまいました。

『ネオマニラ』上映中、スタッフと一緒に働く?!ミカイル・レッド監督。

国を超え集い描いたアジア色豊かな短編『パープルな日々』『夜間勤務』

この回では、《ニューアクション!サウスイースト》の『パープルな日々』より出演の清水周平さんと《インディ・フォーラム部門》の『夜間勤務』よりキム・ジョンウン監督が登壇されました。

『夜間勤務』キム・ジョンウン監督

『パープルな日々』清水周平さん

今日の上映で初めて仕上がった作品を鑑賞したという『パープルな日々』清水周平さんは「はずかしく、顔をさげてしまいます。映画にでるのも初めてでしたし。でも、新鮮で楽しくチームやクルーも最高でした。僕は俳優ではないんですけど(笑)」と感想を述べられました。

どこまでがリアルなのか、という質問に「線引きが難しいです。物語的には、ほぼノンフィクションです。実際、役柄と一緒で僕も歌手で彼女も美容師です。でも僕はあんな性格ではありません。キレて、くってかかっていましたが、いたって温厚です(笑)」と答え、会場からも笑いが。喧嘩の場面について「怒るというのが難しく苦労しました。主役の女性とも仲がよい友達なので、監督の腕で喧嘩させていただきました(笑)」と話されました。

続いて『夜間勤務』キム・ジョンウン監督が「まず、たくさんの方に観ていただき、感謝いたします。ありがとうございます」と挨拶されました。そして具体的にこの物語がうまれた経緯について「実際、私も働いているなかでベトナム人の女性と友達になりました。韓国にも外国人労働者への差別のようなものが存在することを働いてみて感じたのです。外国人労働者は弱者と考えられがちです。しかしそうであっても、主体的な強さがあるんだというところをクローズアップしてみたかったのです。韓国人のユニさんも海外にいっても弱者ではなく主体的に自分の人生を歩んでほしいという気持ちからこの映画をつくりました」と制作への想いを語られました。

また、描かれていたカンボジア人の女性について「7年前に韓国に来られ、結婚もされています。彼女は大統領や映画俳優になりたいなど大きな夢をもっている人です」と頼もしい人柄も紹介されました。

3.11に日本初上映となった偶然をも会場中が受け止めた『種をまく人』

《インディ・フォーラム部門》『種をまく人』の上映があり、竹内洋介監督、出演された足立智充さん、岸カヲルさんが登壇されました。

「この作品は2011年の東日本大震災のあった夏に被災地でみたひまわりと敬愛するヴィンセント・ヴァン・ゴッホの人生、実際の僕のダウン症の姪っ子などが関係し、、この話になっていきました。今日、3月11日の震災の日に日本初上映となり感慨深いです。本来は主役の岸建太朗さんがきてくれる予定だったのですが、本日は被災地に行かれています。私も毎年被災地に行っていました。が、今日は足立さんと、映画の中でも実際でも主人公、岸さんのお母さんである岸カヲルさんと一緒にこちらへ来ました」と竹内洋介監督が挨拶されました。

続いて足立智充さんは「ありがとうございます。これを見た人がどう思うのかなと思いながら、観ていました。監督、岸さんに導かれるように演じたことが思い出されました。ほんとうにありがとうございます」と挨拶。岸カヲルさんは「銀座の喫茶店で監督と息子を前にオーディションをうけたんです(笑)。自分が目に障害があることと、監督の姪っ子さんのこととで気持ちがたかぶり泣いてしまい、オーディションには合格したのだと思います。監督と息子たちが実際にひまわりの種をまいて、水をやってくださった松島の方などのことを思い、ひまわりを見ると感慨深いものがあります」と語られました。

竹内洋介監督

足立智充さん

竹内洋介監督は「ゴッホを現在の日本に置き換えて描こう、としていた最中に東日本大震災があったのです。そこで、主人公の設定には、震災でのがれき撤去や遺体対応で心を病んでしまった、という裏設定をつくっていました。ゴッホは精神を病み社会に排除されても自分のやるべきことをした、ということから、社会から目を向けられていない人たちに光をむけたいと思ったのです。実際、ダウン症の姪っ子がかわいくて、表面には見えない部分でも、なにかを変えてくれると信じてこの映画を作りました」と本作への想いを語られました。

岸カヲルさん

タイトルの通り、主人公が種をまくシーンについて質問が及ぶと「あのシーンは、ひとことでいうと、祈りです。ゴッホのキャラクターからくる愛情のまま行動してしまう純粋さ。石を積んで追悼しようとしますが救われず、ひまわりを見つけ種をまきます。いろんな想いを含め、一番愛情をもっていた人への追悼の意味があると思っています」と竹内洋介監督が説明されました。撮影に使ったひまわりは、すべて監督たちが種をまいて育てたもの。そのひまわりで印象的なラストシーンをつくりだしたという本作。大きな拍手と共にこの時間は終了しました。

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