開催レポート
 
3月15日(土)9日目 vol.1

 

若い世代にこそ伝えたい真のリーダー像を描く

インドネシアの大統領選挙を題材にしたコンペティション部門『2014』が世界初上映され、ハヌン・ブラマンチョ監督とプロデューサーのセレリナ・ジュディサリさんが登壇されました。

ジュディサリさんは、「政治的なものを扱い、国の良きリーダーをどうやって選ぶかというスリリングな題材をもとに、エンタテインメントとして描いた」と紹介し、監督と一緒に上映を鑑賞。上映後は大きな拍手に包まれました。

Q&Aでは、早速「政治的にかなり踏み込んだ内容の同作に周りからの圧力や批判めいた意見はなかったか」と核心的な質問が飛び出しました。それに対し、「この作品は国内公開が認められていない。議会選挙や大統領選挙(2014年夏)の前に観てほしいが、現実を先取りしたかのような内容に驚きを持って迎えられている。今はしかるべき時を待つしかない。キャラクターは特定の人を示しているのではなく、リーダーだが人々に奉仕する理想像を示している」とジュディサリさん。

  • ハヌン・ブラマンチョ監督
  • セレリナ・ジュディサリさん

「映画監督として良いリーダーとはどんなものかをイメージした。」とブラマンチョ監督。また今まで宗教を取り上げることもあったブラマンチョ監督は「過去作品『アヤチンタ』で取り上げた多様な宗教に見られるように、多様性がインドネシアの源」と語り、また本作も「娯楽作品として楽しんで見ていただきたい」と、今回は自国の政治を知らない若い世代に向けた作品に仕上げたことを付け加えられました。

 

 

 

笑顔あふれる監督がみせた本作への強い思い

コンペティション部門『アニタのラスト・チャチャ』の上映に、シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード監督と、撮影を担当したアルマ・R・デラペニャさんが登場されました。

女の子が年上の女性に恋をするという内容の本作。「男の子が年上の女性に恋をするという形の物語は考えなかった?」の質問に「もちろん、考えの中ではあったが、最終的に女の子が年上の女性に恋をするという物語のほうが面白いと思いこちらを採用した。」とのこと。また、物語を大きく吸引する子ども達の存在にも触れ、「活躍している子役1人以外は、ほとんど今回の映画が初めてのお芝居だった」ようで、主人公のアニタ(テリ・マルヴァー)もこの映画のオーディションで抜擢した女の子だったそうです。

  • シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード監督
  • アルマ・R・デラペニャさん

会場から「楽しい中にも、衝撃的な内容を含む映画だったが、アニタの裸がでてくるシーンなど、日本ではバッシングの対象になるかもしれないが、フィリピンではどうなのか。」という質問には「アニタの裸のシーンはさほど問題にはならなかった。それは視聴をする大人がどのように解釈をするのかという問題なのだと思う。むしろフィリピンで問題となったのは、中絶に関する事柄。フィリピンでは始め、作品が「X」(好ましくないもの)とされた。この評価に不服であったので、抗議したが、最終的にはR16指定ということになった。」と答えられました。

また、「撮影で一番難しかったのは?」という質問に、撮影担当のアルマさんは「1つ目は、資金集め。2つ目は、ピラール役のエンジェル・アキノさんの撮影。彼女は人気女優なので、毎回24時までには撮影を終了しなくてはならなかったので、時間との戦いだった。」と答えられました。

熱心に質問に答えるお二人の、合間でみせるこぼれる笑顔に会場も終始、和やかな空気となりました。

 

 

 

自身の経験を通して世界とつながる作品を描く

シネ・リーブル梅田にてコンペティション部門『シフト』が上映され、シージ・レデスマ監督による舞台挨拶とQ&Aが行われました。

9年間コールセンターのエージェントで働いた経験に基づいてこの作品をつくったという監督。登場人物のジェンダーの多様性については、フィリピンの社会では保守的な考え方が根強いという。しかし、コールセンターのようなアウトソーシング業界は比較的寛容で働き方が自由で考え方も開放的な人が多いのでジェンダーについても進歩的な考えを持つ人が多いのではないか、という経験から今回の設定をつくられたとか。

「主人公のエステラのキャラクターは99%くらい自分と重なる部分がある。」という監督は、昔はエステラのように髪を真っ赤や紫に染めたり、短髪にしたりしていたそう。「多分内面のもろさや弱さを隠すために外見を強くする、そういう面があったかもしれない。」と当時の自分を振り返りました。

「私自身は自分のことを生まれながらの作家や芸術家だとは全く思っていません。今回の作品も完全に自分の経験に基づいた作品ですし、それだからこそ描けたのだと思っています。また性格的にも決して外交的ではないので、どちらかというと一人で本を読んだり、映画を見たり、芸術に触れる経験で世界とつながるというような人間だと思っています。この作品も私と似たような境遇とか性格の方に伝えられたらいいなと思いました。この作品を見て何か少しでも励みになるとか、誰かの支えになるようになればいいなと思って作りました。」と思いを語られました。