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合作ながらも撮影スタッフは全員ベトナム人で“ベトナム人のための映画”に

『大親父と、小親父と、その他の話』

今年のコンペティション部門国際審査委員を務めるファン・ダン・ジー監督のベルリン国際映画祭出品作、〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉『大親父と、小親父と、その他の話』が上映となり、監督が登壇されました。

陰影に富む映像、特に川辺や森の中の夜のシーンは強烈な印象を残します。『ビー、心配しないで』(OAFF2011)で初来阪した時が、東日本大震災の起きた3月11日だったという監督は、当時スタッフの配慮のおかげで地震の恐怖を感じずに済んだことに感謝しながら「日本の映画や文学が小さい時からとても好き。それがなぜか、をあの時の経験から理解できました」と挨拶。

本作について観客から、私的小説のようで観る側の知性を試さる刺激的な作品だった、との声があがると「私がハノイで映画を学んでいた90年代前半が舞台。ソビエトのシステムで映画や写真を学んでいたが、それが崩壊したことで(作品中で)写真現像のシーンでもとても古い紙を使い、自分自身のことを盛り込んだ」と語られました。

また、フランスとの合作である本作。撮影スタッフに外国人が参加すると脚本の検閲が入るベトナムの映画制作事情を明かし、「映画の照明や映像については、全てベトナム人のスタッフで行い、ベトナム人のためのベトナム映画になった」とコメント。フランスでは編集やポストプロダクション、音声・色調整などをいつもと同じスタッフで行い、既にファン・ダン・ジー監督独自の作品テイストが出来上がったようでした。

20世紀初頭の武術をワイヤーなしで描く、本物アクション登場 『師父』

天津を舞台に「詠春拳」の担い手が壮絶な死闘を繰り広げる《特別招待作品部門》『師父』が上映となり、任侠小説家でもあり、自身も「詠春拳」を習ったというシュー・ハオフォン(徐浩峰)監督とプロデューサーのリー・シア(李霞)さんが登場しました。

本作について監督は「職業として武術をとらえています。ワイヤーを使ったりしない武術を見ていただきたい」と挨拶。また作品では、アクション監督も兼ねるほど武術にたけていらっしゃる監督。プロデューサーのリー・シアさんは、製作のご苦労を聞かれると「監督さんがいろいろ気配りしてくれたので、とてもスムーズにいきました」とのお答え。

シュー・ハオフォン(徐浩峰)監督

リー・シア プロデューサー

本作の主演にはベルリン国際映画祭で男優賞を受賞しているリャオ・ファン(廖凡)さんを起用。それについては「学校でアクションを習った人ではなく最初から武術のトレーニングをお願いできる人を選びたくて、その結果、彼になりました」とお話しに。また、ジアン・ウェンリー(蒋雯丽)さん演じる女性の拳法のマスターについては「社会は実は女性にコントロールされているのではないかと思っています。そういうことをキャストで表現しました」と語られました。

“映画として”ラストをわざと曖昧にした、という監督。「どのように観客が受け取るかは観客にゆだねたいと思います」とおっしゃった監督の元には、Q&A終了後、遅い時間にも関わらず即席のサイン会が行われ、直接話し込む観客の列ができていましいた。

10年ぶりの新作上映、足立ワールド健在 『断食芸人』

あの足立正生監督、約10年ぶりの新作《特別招待作品部門》『断食芸人』が登場。様々な解釈が可能とされているカフカの短編小説「断食芸人」を、奇想天外な足立ワールドとして映像化した一作。上映中、会場はその独特な世界感に飲み込まれたかのように一つに。

上映終了後、拍手の中、足立正生監督がご登壇。「いつ頃、カフカの原作に出会ったのですか」という質問に「半世紀前に1度読み、2〜3年前にもう一度読みました。さらにはオーソン・ウェルズ監督がカフカの『審判』を映画化していたことに影響されたことで、今回この作品を撮ろうと思いました」とご説明。また監督は「この作品は最後にオチがあり、一種の落語や紙芝居みたいなものなのです」と、独自の解釈や表現についても話されました。

監督は、緊張でなかなか質問ができない観客にむけ「映画は観た人の頭の中で創造されるものであるから」と話され、自らの思いのままを言葉にするよう、観客に語り掛けるシーンも。この時間、観客たちは監督の言葉1つ1つに耳を傾け、その言葉とともにこの作品についてそれぞれ考える、といったとても興味深い時間になりました。

エキサイティングな映画ここにあり 『食べられる男』

21時からの上映で、かつ、あいにくの雨模様だったにも関わらず、《インディ・フォーラム部門》第12回CO2助成作品『食べられる男』の上映に大勢の観客が溢れかえりました。上映中も各所で笑いがおき、上映が終わると会場は観客の盛大な拍手で包まれました。

そのひとつになった場内へ、近藤啓介監督、主演の本多力さんをはじめ、時光陸さんひと:みちゃん、脚本の小村昌士さんが登場。クラウドファンディングの投資者用に制作したという作品のオリジナルTシャツをお揃いで着て登壇。観客の拍手は上映後よりもさらに大きなものになりました。

近藤啓介監督

本多力さん

会場からの「宇宙人に食べられるまでの人の姿という、このような突拍子もないアイディアはどこから出てきたのですか」という質問に、近藤監督は「もともと宇宙人に人が食べられる作品をつくりたいと思っていて、世間で流行っている“余命もの”を自分ならこんな感じでも撮れるというのを見せたかった」とのお答え。

時光陸さん

ひと:みちゃん

小村昌士さん

会場からの質問が途切れると、ひと:みちゃんが、この作品で初めて作曲した劇中歌を歌おうとされたり、監督と脚本の小村さんが高校、大学の同級生で、さらに身長も学籍番号も近くて(!)とても仲が良いといった話まで。制作には二人の母校の大阪芸術大学の方たちが多く関わっており、撮影現場は気心知れた仲間たちとのアットホームな雰囲気だったようです。「映画とはエキサイティングなもの」と語られた監督。 観る側もエキサイティングな体験のできる作品であり、Q&Aの時間となりました。

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