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虐げられているアウトサイダー音楽の一大絵巻にしたかった。心の叫びが炸裂した『大和(カリフォルニア)』

《コンペティション部門》『大和(カリフォルニア)』はこの日、日本初上映を迎え、平日午後にも関わらず、会場はつめかけた観客で熱気を帯びました。

米軍基地のある神奈川県大和市を舞台に、ロードサイドの風景、ショッピングモールなど、大和市のあるがままを映し出しながら、底辺を生きる若者たちの姿をスクリーンに焼き付けていく青春音楽映画。最後に、人として大事なことを観客に訴えるかのようにフリースタイルで語りかけるラストシーンは圧巻。上映後には大きな拍手が沸き起こりました。

Q&Aでは、昨年の本映画祭で上映されたオムニバス映画『ファイブ トゥ ナイン』に続き2年連続の出品となる宮崎大祐監督と、出演のGEZANメンバーである、マヒトゥ・ザ・ピーポーさん、イーグル・タカさん、カルロス・尾崎・サンタナさんが登壇されました。まずは宮崎監督から来場のお礼と共に「いろんな人を傷つけたり、傷つけられたりしつつ何か表現し続けている人や、世界なんかクソだとか、明日死にたいと言っている人たちが、この映画を観て、もうちょっと生きようと思ってもらえたら幸いです」とご挨拶。

宮崎大祐監督

(左から)マヒトゥ・ザ・ピーポーさん、イーグル・タカさん、カルロス・尾崎・サンタナさん

登壇ゲストのマヒトゥ・ザ・ピーポーさん、イーグル・タカさん、カルロス・尾崎・サンタナさんは、クライマックスとなる森の小屋での演奏シーンに登場していますが、「シナリオはかなりアバウトで、“ポエトリーポエトリー”になっていた。スタッフもおそらく誰一人として何が起こっているか理解していなかったシーンで、GEZANの皆さんにはあえてシナリオを渡さずにやってもらった」と宮崎監督が意図を明かす場面も。その演奏シーンで魂のこもった演技をみせるさくら役の韓英恵さんの話題になると、「(韓さんの後ろで)演奏している間にすごいなと思った。惹き込まれました」「彼女が涙を流しながらやってきたので『自分のこと、好きなのかな』と思いましたが、その後何もなくて(笑)」と、皆さん口々に韓英恵さんと共演した時の様子を熱く語って下さいました。

一方、主演に韓英恵さんをキャスティングしたことについて宮崎監督は、「毎回これが最後の作品と思っているのですが、死ぬ前に誰と仕事をしたいかと考えた時に、韓さんだと思いオファーを続け、撮影の2週間前にOKがとれました」と熱烈なラブコールの末に実現したことを明かしました。また、さくらの母役の片岡礼子さんや、母の恋人(米兵)の娘、レイ役の遠藤新菜さんなど登場する女性の描写が共感できたという観客から、演出の秘訣を聞かれた宮崎監督は、「普段から女性や出演者をよく観察して、いい面を見つけようとしています。でも一番の秘訣は、僕は心が乙女なので(笑)」と自信を覗かせるひとコマも。

最後に本作の大きな見どころである音楽面で、アーティストの起用について触れた宮崎監督。おそらく誰にも分からないテーマと前置きしながら「虐げられているアウトサイダーの一大絵巻にしたいという思いがありました。ラップや黒人音楽は元々そういうもの。日本もそういう系譜にロックやノイズミュージックがあり、その流れでGEZANの皆さんとの出会いがありました。GEZANは歴史的な60~70年代の日本のロックにおける正統な後継者だと僕は思っていて、GEZANによる日本発の虐げられた方々の音楽と、アメリカの虐げられた方々の音楽がぶつかった時に何が起きるか。GEZANの出演シーンで僕がやろうとしていたのは、極めて抽象的な試みです。音の配置を考えてシナリオを作っていました。」当初よりクライマックスにGEZANの出演シーンと決めていたとのこと、この日ゲストとして登壇してくださったメンバーの皆さんへのラブレターのような言葉でこの時間を締めくくられました。

大和市出身のお客様から感謝の声が挙がるなど、次々に質問や意見が飛び出し、盛り上がったQ&Aの終了後も、サイン会などで監督へ声をかけるお客様も見られ、熱い時間が続きました。

まさかの悲報。しかし、より音楽のパワーを感じられる作品になった『ギフト』

特集企画《ニューアクション! サウスイースト》、《日タイ修好130周年 タイ映画プロモーション》『ギフト』が上映されました。当初から登壇予定だったチャヤノップ・ブンプラゴーブ監督とグリアングライ・ワチラタンポーン監督に加えて、急遽、出演のチャンタウィット・タナセーウィーさん、ニター・ジラヤンユンさんも登場。会場からは喜びの声があふれ、大きな拍手でゲストたちを迎えました。

この作品で使用されている楽曲について問われるとグリアングライ・ワチラタンポーン監督は「この作品は3話で構成されていて、故・プミポン国王陛下が作曲された3曲が使われており、1話目『たそがれ時』、2話目のヒロインがピアノで演奏していた『Still on my mind』、3話目のバンドで演奏していた『新年の歌(新年の贈り物)』という曲。どれもタイ人であれば子供のころから意味が分からなくても聞いたことがある曲で、メロディーが自然と浮かんでくるポップな曲です。『新年の歌(新年の贈り物)』は毎年、新年になると歌われる曲で、この曲は65年前に故・国王陛下が作曲された曲ですが、故・国王陛下が作った曲であることを忘れるほど馴染みのある曲です」とご説明に。

チャンタウィット・
タナセーウィーさん

ニター・
ジラヤンユンさん

グリアングライ・
ワチラタンポーン監督

チャヤノップ・
ブンプラゴーブ監督

ニター・ジラヤンユンさんは「実は、役者全員が楽器を演奏できなかったのですが、いい作品にしたいという思いで練習しました。国王陛下の曲をタイの人達に喜んでみてもらえてよかったです」と話されました。

本作のタイでの劇場公開は昨年末。そのことについて「タイでは映画のプロジェクトは2年前から始まっていました。上映直前に国王陛下が亡くなられるという思いがけない事態が起こりました。タイでは子供から大人まで幅広い世代が映画を見に来ていました。観客も国王陛下が懐かしいという共通の思いを抱いていました。私自身もいくつも映画を作っていますが、特別な感情を持った映画ですね」とチャヤノップ・プンプラコープ監督は話されました。

同様にグリアングライ・ワチラタンポーン監督も「撮影をしていた際は国王陛下がご存命のときだったので、哀悼のつもりではなく、国王陛下の音楽への深い造詣をコンセプトにプロジェクトを始めたのです。他の国のことは分かりませんが、タイ人と国王陛下の間には特別な絆がありました。国王陛下は父親が子供を守るように国民を守ってくださったので、タイ人は国王陛下のことを父のように慕っているのです。が、ちょうど公開された時は崩御された後だったので、タイの人がこの作品を見た時の心境も少し変わったと思います」と語られました。

ちなみに、OAFF2013『アンニョン! 君の名は』でご登壇されたことのあるチャンタウィット・タナセーウィーさんに、日本の女優さんの誰と共演したいですか、という当時と同じ質問が及ぶと「前回答えた時と同じ、深田恭子さんのままで心変わりしていません(笑)!」とのお答えに、会場も盛り上がりました。

あっという間のQ&Aの時間でしたが、会場に大きなサプライズギフトが届けられたような嬉しい時間となりました。

ロケ先での温かく多大なるサポートに感謝を込めて 『イカロスと息子』

協賛企画《芳泉文化財団の映像研究助成》『イカロスと息子』の上映後、余韻を噛みしめるように、しっかりとした拍手が鳴り響く中、眞田康平監督柳島克己撮影監督が登壇されました。

制作の経緯について柳島克己さんは「本作は2年前、東京藝術大学の学生が主導して企画を立ち上げ、監督と脚本を眞田監督が担当して長野県上田市で撮影したものです。4日間の撮影では、上田市観光協会の厚い支援もあり公民館や結婚式場を借りることができた上、のべ70人のエキストラのご協力をしていただきました」と話され、眞田康平監督も「撮影的にも様々なもの、場所を貸してくださり。特に結婚式のシーンなどは、自分たちだけでは到底作ることができなかったと思います」と当時を思い起こし感謝を述べられました。

眞田康平監督

柳島克己撮影監督

本作は、父親と息子の関係に焦点を当てながらも、周りの人間の個性や過去が複雑に映し出されており、登場人物たちの言動ひとつひとつに可笑しみを感じる人間ドラマ。監督は、「今作で“うまくやりたいのにどうしてもうまくやれない……ほんとダメな人”にスポットを当て、そこにある“人間のおかしさ”を表現したかった」とのこと。だが、脚本を作り直しているうちに望んでいた結末とは違ったラストになったと告白された監督。「そういうダメな人がほんとは救われるところまでいければよかったんですけど」と、照れながら受け答えをされる様子に、作品への想いと監督の優しさが垣間見られたトークとなりました。

信頼できるスタッフで挑んだ“子供たち”の闇を描き切る一作 『子供たち』

世界初公開となる、協賛企画《芳泉文化財団の映像研究助成》『子供たち』の上映後に遠藤幹大監督共同脚本の岡田寛司さんが登壇されました。

『友達』(OAFF2014)の遠藤幹大監督が、共同脚本の岡田寛司さんや同じスタッフとともに自然な流れで制作することになったというこの作品。監督は「大阪アジアン映画祭は初めての長編映画を最初に上映した映画祭で、大変思い入れがあって、またこの場所でできることを非常にうれしく思っています」と、感慨深げに語られました。

監督と話し合いながら脚本を書いていったという岡田寛司さん。本作を企画するにあたって“真夜中に子供が何人か集まっている状況”に恐怖を感じたという監督の体験を聞かされたそう。その話を受け、まさに“子供たち”の残虐な部分を描いた物語が完成。監督は教えるということにおいて、“正解は教師にあってそれを教えるのみ”ということに不安定さを感じたようで「どっちに正解があるかとか、そういうのがひっくり返る瞬間みたいなことを捉えることにこだわって描いていきました」と話されました。

遠藤幹大監督

岡田寛司さん

そんな子供たちに脅かされる教師を演じた忍成修吾さんについて「『信用ならない人物を主人公に設定したい』と監督から要望があり、それには忍成さんがぴったりかな(笑)と思いました」と明かす岡田寛司さん。

質問に体験を交えながら真摯に答えられる遠藤幹大監督と、会場の反応を感じ取って足りない部分を補足する脚本の岡田寛司さん。お二人の作品作りの姿勢や信頼し合う関係が伝わってくる、貴重なトークとなりました。

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