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互いの作品について語った興味深き時間 『息ぎれの恋人たち』『ピンパン』『夏の夜』

この時間、《インディ・フォーラム部門》『息ぎれの恋人たち』清水俊平監督、そして特集企画《アジアの失職、求職、労働現場》『ピンパン』田中羊一監督、出演の柳英里紗さん、彭羽さん、石橋征太郎さん『夏の夜』イ・ジウォン監督が登壇されました。

『ピンパン』では、毎日職場のセクハラに耐えながら、仕事帰りに卓球に打ち込むことで苦しみを吐き出す女性と中国人女性とのラリーを通した対話が描かれます。終始安定した姿勢で練習する素人とは思えない演技の柳英里紗さんは中学時代に卓球をされていて、地区大会でベスト3に入ったこともあるほどの実力の持ち主だとか。「元々『ピンポン』という映画に憧れて卓球を始めたので、いつか卓球の映画を撮ってほしいと思っていたら、田中羊一監督からお声がかかって、すごく願いが叶ったなあと思っています」と、柳英里紗さんはマイクをしっかりと握り、笑顔で感謝の言葉を述べられました。

『ピンパン』田中羊一監督(左端)

(左から)柳英里紗さん、彭羽さん、石橋征太郎さん

一方、彭羽さんは、相当苦労して卓球の練習をされたそうで「中国出身なので卓球がうまいと思われがちですけど、全然できなくて」と話し、撮影のために特訓したことを明かしました。横でお聞きになっていた石橋征太郎さんも当時を振り返り「本当に下手くそで(笑)」と追い打ちをかけるような一言。これには彭羽さんも「やめてよ」と苦笑い。互いに助け合って何度も撮られた様子をよく窺わせるやりとりでした。

『夏の夜』イ・ジウォン監督

日本や韓国の若者をとり上げた内容となっているこの3作品。会場からそれぞれの監督へ互いの監督作品の感想を求められると『息ぎれの恋人たち』の清水監督は、「どの作品も抑圧された若者が突破口を見つけようとするというテーマが共通していると思い、どの作品にも好感を持っています」と答えられました。

また『ピンパン』田中監督は、題材について清水監督と同じ見解を持ちながらも「日本の作品は、主人公が社会の外に自分の居場所を見出そうとしていることから、悪い意味でナイーブな部分があるけれども、韓国の『夏の夜』に関しては、そういう状況にありながら何とか押し出ていくようなパワーがあると思いました」と違いについて見解を述べられました。

『夏の夜』イ・ジウォン監督、撮影のソン・ジニョンさん

『夏の夜』のイ・ジウォン監督は3作品の構成の違いについて言及され「私の映画というのはドラマを紐解くような感じの映画です。それに対して日本の監督おふたりの作品は演技を通して何かを訴えようとする私とは違った技法を使う監督さんたちだなと感じました」と鋭く分析されました。

手を前後に組み替えながら、真摯に両国の作品について話されるイ・ジウォン監督と、そのお話にじっと耳を傾ける日本の両監督。監督競演ならではの興味深いトークとなりました。

仲睦まじいゲストたちに会場もほんわかムードに 『海の底からモナムール』

《インディ・フォーラム部門》『海の底からモナムール』が上映され、エンドロール後自然と拍手が沸き起こる中、ロナン・ジレ監督、出演の桐山漣さん、清水くるみさん、杉野希妃さんが登壇されました。

桐山漣さんは「この作品は、日本とフランスの合作の映画ということで、私も国や言語の壁を越えた作品に携われることを本当に嬉しく思っています」とコメント。杉野希妃さんは「私にとって大阪アジアン映画祭は2011年に初めて来てから本当にお世話になっている映画祭なので、こうやって大好きな人たちと一緒にまた来ることができて本当に嬉しいです」と笑顔で話されました。

ロナン・ジレ監督

桐山漣さん

2年前の夏、広島で撮影されたこの映画。劇中では死後も片思いの相手を慕い続ける17歳の女子高生を演じた清水くるみさん。「撮影の大部分が水中ですごく大変でした」と当時を振り返られました。現場の印象を聞かれると「見てのとおり、ロナン監督がこういうかわいい感じの方なので、ほんわかした現場でしたね」と桐山漣さんがお答えに。

清水くるみさん

杉野希妃さん

台本を読む中で、過去に死んだ少女が再び現れる、という設定から、ホラー映画かと思ってしまいそうですが、清水くるみさんは事前にこの映画が“純愛ストーリー”であると聞かされていたといい、役作りに関して尋ねられると、「普通の女子高生だと思って、ただ片思いをしている、ということに注力して、ユーレイとしての役作りはしてなかったです」と話され、自身の演じた少女については「ちょっと暗い女の子だけど、自分の中にもっているものがしっかりある、と感じたので、そこを大切に役作りをしていきました」と分析されていました。

本当に仲の良い空気が伝わって来たゲストの皆さん。会場全体にも素敵な空気が広がっていきました。

映画の可能性にかけるスタッフ、キャストの熱き想い 『HER MOTHER』

《インディ・フォーラム部門》『HER MOTHER』の上映後、佐藤慶紀監督と出演の西山諒さん、西山由希宏さん、荒川泰次郎さんが登壇されました。

出演の方々が順に挨拶をされました。

西山諒さん:「とてもしんどい作品ですが、観た後、みなさんの心の中にとても大事な人のことが心に浮かぶはず。そして、本当につらい思いをもって生きている方によりそうことが出来るようにいたい…と思っています」

西山由希宏さん:「重い映画を観た後、感想をどうぞと言われましても、まとめようのない思いでいらっしゃるんじゃないかと思います。それだけの影響力のある映画だと自負しております」

荒川泰次郎さん:「平日の夕方からこんなに集まっていただいて本当にありがとうございます。この映画は、家族や愛、人の命についての映画だと思います。また、色々な感想を聞かせてください」

佐藤慶紀監督

西山諒さん

西山由希宏さん

荒川泰次郎さん

佐藤慶紀監督からは「『会話劇にしよう』と決めて、それにはしっかりした脚本を書こうと思いました」と述べられ「後は役者さんにゆだねた、といいますか、“この人”と決めてキャスティングしたからには、現場で取り立てて演出とかはしていかなかったですね」と話し、会場を驚かせました。

一方、ゆだねられた側の西山諒さんは「18日間という短い期間でしたが、どんどん体重が減っていって。役作りの上ではちょうどよかったんですけど。あと、撮影期間泊まっていたのは“住みたい街No.1”とも言われる吉祥寺で、お洒落なお店がいろいろあるんですが、なんかもう、その素敵な街がにくらしくなって…。役の気持ちになっていて、一人でおにぎりとか食べていました」とエピソードを話されました。

また、西山由希宏さんは、起伏の激しい役を演じたことで「正直、役と自分が混ざってしまうと壊れそうな気がして、完全に割り切ってその日の撮影シーンだけに集中して演じていました」と語り「僕は実際には子供がいないので、愛猫が殺されたら…とか考えて演じていました。猫と人間では全然違うと思いますが、それでも十分心が痛かったです」とコメント。そして、加害者役を演じた荒川泰次郎さんは「僕の場合は、初めて脚本を読んだ時に『この加害者、本当はいい人なのかな?』と思いました」と感想を述べられ「こういう真面目な優しい人間が罪を犯すという状況に陥ってしまうところがすごく共感できました」と話されました。

作品を通し突きつけられる「死刑制度」について佐藤監督は「“死刑制度”には反対の意見を持っているのですが、映画というものは強い影響力を持っているので、そこで自分の主張を通すというのはしてはいけないことだと思うんです。ただ、複数の視点をみせていろいろ考えてもらうきっかけになればと。日本ではあまり死刑について触れてはいけないという空気があると思うのですが、この映画を観たことによって、“死刑制度”についてオープンに議論する環境が出来ればと思っています」と語られました。

監督、キャスト一丸となってつくりあげた本作の役割が、会場にひしひしと届いていくのがわかるようでした。

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