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海をこえて愛された玉木家のおばあさんのエピソードに会場もほっこり『海の彼方』

《特別招待作品部門》『海の彼方』の上映後、黄インイク監督が登壇されました。

日本語で「皆さん来ていただいてありがとうございます」とご挨拶。このドキュメンタリーの中心人物となる玉木家のおばあさん。「撮影当時は88歳ですが今は90歳です」と伝えられると、会場から驚きの声がありました。

その玉木家のおばあさんを取材するきっかけについては「中国教育を受けていないまま、八重山に来た人で昔の話の記憶を話せる人が少ないのですが、そんな中で、お元気な玉木さんがいて、家族で米寿のお祝いをすることも話に聞いたので」とのお答えでした。

過去にもドキュメンタリー作品をつくってこられた黄インイク監督。しかし「ここまで長い長編は初めてで、かつ、本作は八重山3部作構成になっています」とお話しに。また「台湾の皆さんにとって八重山、石垣島の移民については学術的に有名ですが一般には知られていないのが現実」だそうで、その台湾で上映された際、「笑いの箇所が違いましたね。それから、玉木家のおばあさんが、まさに“台湾のおばあさん”だと共感される方が多く、自分の母、おばあさんを思い出したそうです」と話され、おばあさんはこの台湾上映後に人気者になったことを明かしました。

会場も、玉木家のおばあさんの近況も聞くことができ、和らいだ空気となっていました。

監督独自の世界感に演者も観客も酔いしれる 『蹄』

《インディ・フォーラム部門》第13回CO2助成作品『蹄』の上映後、木村あさぎ監督と出演の木村知貴さんが登壇されました。

木村あさぎ監督が「自分の作品を映画館で上映するのは初めてのことで、とてもうれしく思っています」と挨拶すれば、木村知貴さんは「監督と同じ木村ですが特に血縁関係はありません(笑)。遅くまで映画を見ていただき、ありがとうございました」と会場を和ませるご挨拶。

ちなみに監督のお名前の「あさぎ」の由来について聞かれると監督は、「『リュウキュウアサギマダラ』という蝶の名前からとった名前です。私の父が、映画にも出ていた虫を採集する仕事である虫屋であったことから、この名前になりました」と素敵なエピソードを披露されました。

木村あさぎ監督

木村知貴さん

また、作品のメッセージについて木村あさぎ監督は「私が作品を作る上でのテーマは“自分の身体に対する疑い”。自分の身体は他人からの認識によって変化していきます。身体は不確かでイメージ通りの存在になりうるかもしれない、というアプローチで“身体というもの”を描きたいという思いで作品づくりをしました」と説明されました。一方、木村知貴さんは「クランクイン当日の撮影は、物語最後の水牛のシーンからでした。かつ脚本はあとから上がってくるような状態だった。ただ全体のイメージは事前に監督から伝えてもらっていて、作品の世界観は把握していたので脚本はなくても『まぁいいか』という感じで(笑)。あとは監督を信頼して、監督の思いに近づけたいと思って演じた。みなさんは作品の感想にとまどっていると思いますが(笑)…自分は好きなタイプの作品なので、すんなり好きだなぁと思う映画になりました」と撮影を通して感じられたことを述べられました。

監督ご自身も出演していることに関して「私は完全なフィクションよりもドキュメンタリーに興味があるので、ドキュメンタリーの要素を加えたかったのです。虫との距離感を出すために、役者ではなく実際の虫屋である父に出演してもらうことになった。またドキュメンタリー性を出すために、娘役も自分が演じることにしたのです」とお話しになりました。

独特の世界感が揺るぎない信念のもと制作されていることに触れ、会場もぐっと前のめりになるような時間となりました。

ベースはホラー映画でも、面白味がふんだんに含まれている『バーミー』

《インディ・フォーラム部門》『バーミー』の上映後、田中隼監督と主演の行永浩信さんが登壇されました。

行永浩信さんは「今回で観るのは三回目でした。やっぱりはじめは、ホラー映画だと思って構えてしまうかもしれないですね。でも、これから観る人にはコメディー映画?!とは言いすぎですが笑えるところもあるので、そこも観ていただけると幸いです」と話されました。

前回のQ&A同様、会場からタイトルについての質問が。「タイトルを決めるにあたって2点気をつけたことがあります。一つ目はホラーらしい映画のタイトルの音がいいなと思いました。ジャパンホラーらしいもの。二つ目はすがすがしさを出したかった。英語で調べているとBALMY。これがすがすがしいという意味だったのでこれにしようと思った。しかし、私が台本などでスペルを間違ってしまって、今のタイトルBAMYになってしまいました。台本を刷ってしまったのでいいかと思いまして」と、田中隼監督。これには、場内も笑いに包まれました。また「幽霊には二つ方法論がある。一つは触れる。二つ目は触れない。スタッフ同士で話し合った結果、誰も幽霊を観たことがないということになり、歩いたり、殴れたりすることにしました」と、幽霊の設定についても説明されました。

田中隼監督

行永浩信さん

主人公のふたりが出会うシーンで象徴的に使われる赤い傘について問われると田中隼監督は「赤は運命の糸を表しています。傘は特に意味はなく、3日後の撮影に間に合って準備出来るモノということでした。あとは“ヤバさ”を表現したかった。女性が部屋のなかで傘をさしていたら狂っていると一発でわかると思いまして」と話されました。

田中隼監督、行永浩信さんのお人柄に触れられた時間は大きな拍手のうちに終わりました。

描かれた家族に大阪の会場も一体化 『カム・トゥゲザー』

《コンペティション部門》『カム・トゥゲザー』上映後、大きな拍手のもと、シン・ドンイル監督と主演のイ・ヘウンさんが登壇されました。

海外初上映となった本作について、シン・ドンイル監督は喜びを語られました。また、主演のイ・ヘウンさんは「このような形で皆様にご覧いただけたことを嬉しく思っています。今日はみなさんと一緒に映画を観ていたんですが、韓国の観客も日本の観客も、同じ痛み、同じ喜びを分かち合える、情緒的にも近い国なんだなぁ、仲間なんだなぁと実感しました」と挨拶されました。

シン・ドンイル監督は作品について「昨年釜山国際映画祭で上映し、その他国内の映画祭で上映されていますが、観客の反応は熱かったです。きつい場面も多いですが、ブラックコメディの部分と調和のとれた映画だと思っています。なので、みなさんといろんなところで共有できる部分が多かったのではないかと思っています」と話されました。

シン・ドンイル監督

イ・ヘウンさん

本作は、家族3人がそれぞれ危うい方向へ向かっていく中で、ある事故によって物語が加速していきます。シン・ドンイル監督は「家族3人がそれぞれ危機に直面し、悪い部分が表にでてしまうのですが、悪に勝とうとする。人が持っている善の部分を交差させながら、一人に焦点を合わせるのではなく、三人三様で立ち向かう“悪と善“を私なりに表現したつもりです」と述べると、イ・ヘウンさんも「このお話は、家族の一週間の出来事です。毎日どうにかこうにか綱渡りのような日々を送っているのですが、綱渡りという自覚もないまま過ごしているのです。それがあの事故の瞬間、綱から落ちる。でも、落ちたという感覚もない。人生というものはこのように自覚のないまま流されていくのだという監督の思いに呼吸を合わせて演じました」と語られました。

会場から様々な場面で表現される「ほんの少し」について問われると監督は「『もう少し、もう少しだけ』という言葉は、人間の執着、何かを達成したいという欲望を表す言葉だと思っています。何かを達成することが大事なのではなくて、達成することによって壊れてしまう人間関係とか、いろんなものが存在するという裏腹な面を、感じ取っていただければと思いました」と語られ、イ・ヘウンさんは「私にとっては、その『ほんの少し』という言葉は一番心が痛む台詞でした」と明かし「この言葉は韓国の社会をよく表している言葉だと思います。かなわない夢に対する鼓舞というか、かなわないけれどもう少し頑張ってみようという期待感や重圧に対する痛みを感じていました」と話されました。

お二人の真摯な映画への想いをうけ、会場も映画の中の家族と一体になっているような上映回となりました。

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