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インドネシアでの華僑を描くことの面白さ 『牌九(パイゴウ)』

特集企画《ニューアクション・サウスイースト》の『牌九(パイゴウ)』が上映され、シディ・サレ監督、プロデューサーのテクン・ジーさん、プロデューサーであり出演もされたイリーナ・チュウさんが登壇されました。特にシディ・サレ監督は2009年の大阪アジアン映画祭で『空を飛びたい盲目のブタ』のプロデューサー兼撮影監督として来阪されて以来の登場となりました。

「この映画の企画は2014年くらいから、今ここにいるプロデューサーのテクン・ジーさんと、イリーナ・チュウさんらが映画にかかわり始め、一緒にやることになったところからスタートしました」というシディ・サレ監督は「イリーナさんは、他の仕事から俳優としてデビューしようという時期でした。私たち華僑系の人間は、政治的な問題をかかえた上、民族的にマイノリティということもあって、インドネシアの映画の中で活躍するのは難しいという問題があります。それで、私たちはインドネシアの映画としては非常に珍しい試みですけど、華僑系の人々の社会・組織を扱った物語をつくろうと考えたわけです。物語は、ゼロからフィクションでつくりました」と話され、プロデューサーのテクン・ジーさんが「最初のアイデアはシディから来て、それを3人で発展させました」と補足されました。

シディ・サレ監督

テクン・ジーさん(左)、イリーナ・チュウさん

劇中、幾度と物語の中で「一番大切なのは家族だ」という台詞が出てきたことに関して監督は「華僑の社会では、家族や血縁の絆が非常に強いです。それを表現したセリフだった」と明かされました。そして、イリーナ・チュウさんからは「まず、皆さんがこのような上映の機会を与えて下さったことに感謝します」とお礼があり「この物語は3人がメインのお話ですが、他にもたくさんの登場人物がいろんな役割でからみあって、ひとつのサスペンスが出来上がる訳です。その中でルーシーという役を演じたことはとても光栄で面白い経験だったと思います」と話されました。

作品の中で時折でてくる麻雀シーンにについて質問がでると「牌の数字は、強い数字、弱い数字があります。でも、このゲームを知らない人が観ても楽しめるようにと考えたので、牌の目よりも、4人がお互い相手の手の内がわからないまま、様子をみながらにゲームを進めていく、という感じで使いました」とシディ・サレ監督は説明されました。 短い時間の登壇でしたが、その分、ロビーで観客がゲストたちと語り合う時間が続いていました。

テレビ界、映画界両者から評価された一作 日本初上映『川流の島』

特集企画《台湾:電影ルネッサンス2018》『川流の島』が上映され、プロデューサーのグオ・シーハンさんが登壇されました。

台湾では映画をつくることが難しい中、本作はもともとテレビ用につくられた作品。その製作経緯について問われると「この作品はテレビ局がお金を出して製作した作品です。テレビ局が何かにお金を使わなくてはならないことがありまして、監督を見つけ、相談して、こういう形の話を映画化してはどうかと方向性を決めました」とグオ・シーハンさんは説明されました。

また物語の背景について「高速道路の料金所が廃止されることになりまして、その過程でたくさんの人が職を失い、家族も含め経済的に困るということが実際にありました。それを作品化できないかということが当初ありました。それを作ろうとなった時、非常に多くの困難がありました。まず、ETC化されることへの反対運動が起こり、社会的に注目されるようになりました。そうすると、この映画自体を撮ることを反対する動きが出てきて、結局一ヶ月撮ってから、国からもう撮ってはいけないと言われました。これでもう撮れないと思いましたが、監督は粘り強く困難を乗り越えて完成させました」とその完成まで困難な局面があったことをグオ・シーハンさんは明かしました。

劇中、印象的だった地下道のロケーションについて話がおよぶとグオ・シーハンさんは「あの地下道には面白いエピソードがありました。この映画にはいろんな人が、関わったのですが、ETC導入反対運動のリーダーと監督が信頼関係を築きました。そのリーダーがあの地下道を探してきて、ロケで使ったのです。その後、台中に2年前までは存在したのですが、今は取り壊されました」とのこと。また、音について「実際に音を作るのに一ヶ月以上かかりました。とりわけ幹線道路を行き来する車の音、それはリアルな実際の音だったのですが、それを、どう処理するか、かなり難しかったです」と監督のこだわった音についても語られました。

短い時間ながら映画製作過程を丁寧に伝えてくださった時間となりました。

カンボジアの社会的なジェンダー環境を動かした『ポッピー ハリウッドに行く Redux』

特集企画《ニューアクション!サウスイースト》より『ポッピー ハリウッドに行く Redux』の上映後、出演のドッチ・リダさんが登場されました。「皆さん、こんばんは。ドッチ・リダです。長い間、日本にはぜひ来たいと思っておりましたので、今回、来られて、とても嬉しいです」とご挨拶。

本作が日本初上映となったことについて「この映画は、LGBTのジェンダーの問題を取り上げた映画。ですので、こういったカンボジアのLGBTを扱った映画が、国際的に、ここ日本でも上映されることは、この問題をオープンにディスカッションするキッカケになるのではないかと思います」と述べられました。

カンボジアでのゲイ文化について質問が続くと「カンボジアの社会の中では、これまでLGBTの問題は表に出ることはなく、皆さん隠して、良くないことだと思われていて、社会的には受け入れられていませんでした。しかし、この映画などが公開されることになり、このジャンルの作品もつくられるようになって、こういう人達を侮辱するのではなく、男でも女でも、もっと受け入れていこうという社会的な傾向も出て来ました。また、カンボジアの政府の方でも、そういう方向に進めていこうとしています」と映画がジェンダー問題に進展をもたらした状況を語られました。

また劇中の艶やかなダンサーたちについてドッチ・リダさんは「ほとんどの方は、俳優さんがメイキャップをして演じているのですが、中にはプロのゲイダンサーの方も混じっていました」とのこと。ドッチ・リダさんの美しさも相まって、会場は和やかな空気に包まれました。

ドッチ・リダさんは特集企画《ニューアクション!サウスイースト》『フォレスト・ウィスパー』にもご出演。

復帰作で魅せる監督の“強い思い“と制作現場のギャップとは?『傷心わんこ』

《コンペティション部門》、特集企画《台湾:電影ルネッサンス2018》の『傷心わんこ』の上映前に、チャン・イー監督、プロデューサーロレッタ・ヤンさん、ペギー・チャオさんが登壇。

チャン・イー監督は「この映画は私が映画界から30年くらい離れていて、復帰してつくった映画です。皆さん観ていただくと、“なぜアニメーションなのか”という疑問がわいてくるかもしれませんが、現実世界の映画を撮ろうとすると、なかなかできないシーンがあるのでアニメーションの中で描いています。今日は一つ、皆さんと現実では再現できない体験を、ぜひこの映画の中で一緒に感じていただきたいと思います」と話し「私自身、たくさんの犬と暮らしてきて、家をなくした野良犬たち40数匹と一緒に暮らしてきました。その体験から感じたのは、なぜ未だに犬に対してひどいことをしてしまう人間が存在するのか、ということ。そして自分が“人間”側でいることを深く考えさせられています」と述べられました。

ロレッタ・ヤンさんからは「みなさまこんばんは」と日本語でご挨拶いただき「私は、人も犬から学べることがたくさんあると思っています。この映画で人と動物、それを囲む環境を通して、もう一度皆さんに“人間”について考え直してほしいと思います」と話されました。ペギー・チャオさんからは「この映画は“犬”というよりも実は“人間”を語ってくれる映画だと思います。ぜひ楽しんで下さい」と挨拶がありました。

チャン・イー監督

ペギー・チャオさん

そして、上映後、チャン・イー監督とプロデューサーのロレッタ・ヤンさんが再登場。

公式カタログにあった「故エドワード・ヤンさんとの約束を果たすために本作で映画界に復帰」について問われたチャン・イー監督は「これから中国圏でどのようなアニメーション映画をとっていくかといことを考えた時、彼と2つの共通意識がありました。1つは自分たちの制作チームをどう育てていくか、もう1つはアニメの映画産業をどう構築していくか。残念ながら、彼は先に逝ってしまったのですが、9年間ずっと考えてきたのは、他人任せではなく、自分たちのチームでアニメを完成させたいという思いです。これからは一人となり、この先、たくさんの困難をどのように進んでいくか不安を抱えているところです」と答えられました。

また「私自身、映画監督からアニメの世界の映画監督に転身し、直面しているのが、マーケットの受け入れ環境と自分たちの制作力の問題です。日本のジブリやアメリカのピクサーのように、市場や成熟した制作チームもないのです。最初の物語で、子犬のたった25秒の微妙な表情を80名の制作チームに伝えて、完成するのに1年間もかかってしまいました。そのくらいチームの制作力がまだまだ発展途中なのです。自分のアイデンティティにこだわりつつ、自分の思いを実現することが難しい。中には利益の観点を持っている監督さんも多く、きちんとこだわって制作するためには、ただ、ご縁を待つしかないと思っています」と台湾のアニメーションの制作現場について現状を語られました。

ロレッタ・ヤンさん

プロデューサーのロレッタ・ヤンさんは「今回の4つの物語は自分たちの身近に起きた真実の話です。最後の木の下に埋められたシーンをみると、スタジオのすぐ裏手の山の木の下に埋められたことを思い出し、心が悲しくなってきました」と思い起こして、言葉が詰まる場面も。また今後について「私はチャン・イー監督にはぜひ続けて作品をつくっていただきたいと思います。実写でもアニメでも、私は全力で彼を支えていきたいと思います」と宣言されました。

遅い時間にも関わらず、終了後もロビーでは監督の強い思いに惹かれた観客の方々の行列が続いていました。

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