プレ企画|大阪アジアン映画祭・特別ゼミナール
第2回開催レポート(全6回)2013年8月4日@大阪歴史博物館

夏休みの親子連れでにぎわう大阪歴史博物館で行われた、大阪アジアン映画祭特別ゼミナール第2回。講師の暉峻創三・大阪アジアン映画祭プログラミングディレクターより、今年のOAFFで特集したGTH社最新作『Pee Mak』(アジアフォーカス福岡国際映画祭2013にて上映)の話題や、7月に開催された台北映画祭を通じて読み取れる台湾映画界の今について興味深い話が展開しました。

今年のOAFFで特集企画《GTHの7年ちょい~タイ映画の新たな奇跡》を開催したことはOAFFファンの皆さんの記憶にまだ新しいところでしょう。トークイベント「GTHの7年とちょい話」トークセッション@シネ・ヌーヴォX では、『セブン・サムシング』の共同監督ジラ・マリクン氏、アディソーン・トリーシリカセーム氏、パウィーン・プーリジットパンヤー氏、『フェーンチャン ぼくの恋人』他、GTH作品を製作してきたプロデューサー、ヨンユット・トンコントゥン氏が登壇し、GTH社の歩みやヒット作を生み続ける秘訣についてのトークを展開、最後には最新作の予告編を紹介していただきました。そのGTH社最新作『Pee Mak』(監督パンジョン・ピサンタナクーン/『アンニョン!君の名は』でOAFF2011 来るべき才能賞受賞)が、タイでは現段階(7月末時点)で現地映画史上の興行収入1位となるミラクル・ヒットを飛ばしたほか、アジアでも次々に大ヒットを飛ばしています。

この9月にはアジアフォーカス福岡国際映画祭2013にてジャパンプレミア上映される『Pee Mak』について、暉峻氏は、「タイ映画大ヒットの題材は、今まではタイの王室王朝に関係した映画か、『マッハ!!!!!!!!』(03)などのムエタイアクション映画だが、そのどちらにも当てはまらないということは、いかに作品自体に力があることか」と評価。さらにヒットの理由については、「怪奇ホラー、恋愛コメディという2つの要素を持った話で、ポスターはホラー映画風になっている。しかし実際は恋愛映画のように撮っており、爆笑場面も連続しているため、そのギャップが口コミやTwitterで話題になっている。ヒロインの幽霊女子が堂々としているのに、映画で登場する兵役仲間男子がお化けにキャアキャアと騒いているところも観客にウケている要因だ」と解説していただきました。

暉峻氏はインドからOAFF2010上映作品『デーヴD』のアヌラーグ・カシヤプ監督による大作、『血の抗争 Part1, Part2』が上映されることも紹介。Part1, Part2合わせて6時間近くとインドの『セデック・バレ』(OAFF2012で上映、今年劇場公開)とも譬え得る作品で、始まりから一挙に打ちのめされる必見作だそうです。アジアフォーカス福岡国際映画祭2013に行かれる方はこの2作をチェックしてみてはいかがでしょうか?。

■ベテラン勢に復活の兆し!台北映画祭を通じて読み取れる台湾映画界の今

 

今年は、台湾映画の新作を対象とした台北電影奨コンペの審査委員長にピーター・チャン、審査員にグイ・ルンメイと豪華メンバーが揃い、国際的な注目が増している台北映画祭。台湾映画の注目度が上昇したことに加え、台湾発の映画を一挙上映するというコンセプトが支持され、年々成長を遂げています。9月14日より東京他全国順次公開される『あの頃、君を追いかけた』が大ブレイクしたのも台北映画祭がきっかけであるし、OAFF2013で観客に熱い支持を受けた『GF*BF』も昨年の台北映画祭でオープニング上映されたことで話題になり、ヒットにつながりました。

暉峻氏によると、台北映画祭を通してみる台湾映画界の今年の特徴は大きく2点挙げられます。

1. ベテラン監督の復帰

「近年の台湾映画界は、若い世代の監督によって一挙にヒットし、若者たちの支持を集めている形が多かったが、新作を撮る機会が得られなかったベテラン世代が久しぶりに映画を撮り始めている。若い世代の登場によって映画界が復活し、休業状態になった監督たちも息を吹き返している。これは新世代の台頭で旧世代が駆逐された韓国とは対照的な現象」と指摘しました。

具体的には

○チェン・ユーシュン監督

『熱帯魚』(95)、『ラブゴーゴー』(97)製作後、長編は1本も撮らずにCMやオムニバス作品の仕事を行ってきた。今年の台北映画祭で台湾の出前文化を題材にした新作『総舗師〜メインシェフへの道』をサプライズ上映。

○リン・チェンシェン監督

日本では2005TIFFにて『月光の下、我思う』(04)が上映されたリン・チェンシェン監督最新作『27℃〜世界一のパン』は、パン作りの世界大会に優勝するサクセスストーリー。日本でパン作りを学ぶ場面があり、パン作りの先生として小林幸子が出演している。

またそれ以外にも、新作が予定されている監督として下記の3人を紹介しました。

○ホウ・シャオシェン監督

『ホウ・シャオシェンのレッドバルーン』(07)以来となる新作を撮り始めている。2014年以降完成予定。

○ツァイ・ミンリャン監督

最新作『ストレイ・ドッグズ』がベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出。

○ジェイ・チョウ監督

ベテラン監督とは言えないが、デビュー作『言えない秘密』(07)以来実に6年ぶりの復帰となる監督第2作『天台』が、台北映画祭と同時期にロードショー。

2. 近年途切れることがなかった新世代作家の台頭に陰り

 

「台北映画祭で中心となるのは青年監督コンペティションと呼ばれる、監督作2本までの若手作家によるコンペティションで、この部門に選ばれている作品をみると、最近の台湾映画で注目すべき作品や作家を知ることができる」 と語る暉峻氏。青年監督コンペティション部門作品12本のうち、2本は大体台湾映画枠となってきたにもかかわらず、今年は当初、1本も上映すべき作品がなかったそうです。 「ベテランの復帰は喜ばしいことですが、なぜこのような事態になったのかを考えると台湾映画界が岐路に立っている現状が浮かび上がる」と、ここ数年右肩上がりの成長を続けてきた台湾映画界に一石を投じ、この日の講座は終了しました。

最後に、今年の台北電影奨長編劇映画部門のグランプリを、OAFF2009で『停車』、OAFF2011で『4枚目の似顔絵』を上映したチョン・モンホン監督の最新作『失魂』が獲得し、同作の主演を務めるジミー・ウォング(OAFF2012で上映した『捜査官X』にも出演)が見事に主演男優賞を受賞したことが紹介されました。チョン・モンホン監督、おめでとうございます!

大阪アジアン映画祭特別ゼミナール第3回は、9月29日に開催いたします。

また《GTHの7年ちょい~タイ映画の新たな奇跡》で上映された『セブン・サムシング』が、この度日本でDVD発売されました。OAFFで見逃した方は、こちらも要チェック!