開催レポート
 
3月11日(火)5日目 vol.1 特集企画《東日本大震災から3年〜「メモリアル3.11」》

東日本大震災から3年を迎えるこの日、震災被害と今なお復興の道が見えてこない現地への思いを込めて、シネ・ヌーヴォでは、特集企画《東日本大震災から3年〜「メモリアル3.11」》にて、3作品並びにトークセッションが開催されました。大阪アジアン映画祭としての「3.11」を考える貴重な時間となりました。

『夢を生きる〜テイラー・アンダーソン物語』 夢はここでも生きている 友人が語ったテイラーさんへの想い

『ブリージング・アース:新宮晋の夢』 世界を舞台に活躍を続ける造形作家・新宮晋さん登場

トークセッション 「東北を描く、未来を描く」

『あいときぼうのまち』 つくり手の熱が観客にも伝わったQ&A

 

夢はここでも生きている 友人が語ったテイラーさんへの想い

最初の作品は『夢を生きる〜テイラー・アンダーソン物語』が上映されました。テイラーさんの友人で現在、英語指導助手をしているヘイリー・ツェーワァーさんが舞台挨拶に登場され、24歳で亡くなったテイラーさんへの思いを語ってくださいました。

テイラーさんの影響で英語指導助手となったヘイリー・ツェーワァーさんは「私にとってテイラーさんはかけがえのない存在でした。6年前に出会って以来、彼女は私の日本語教師であり、また親しい友人でもありました。そして母のようでもありとても大切な人でした。きっと石巻市の子どもたちにとっても素敵なお母さんのような存在だったと思います。私は彼女のように子どもたちと良い関係を築くことのできる英語指導助手になりたいと思っています。今回の上映でテイラーさんの思い出をみなさんと共有することができたことをとてもうれしく思っています。この映画によってアメリカと日本の絆がさらに強まり、東北の復興支援に協力できることを願っております。本日は誠にありがとうございました。」と述べました。

 

 

 

世界を舞台に活躍を続ける造形作家・新宮晋さん登場

会場は溢れんばかりの観客で埋め尽くされました『ブリージング・アース:新宮晋の夢』

この日、作品の主人公であり、風や水の力で動く彫刻で世界的に有名な造形作家、新宮晋(しんぐう・すすむ)さんが、登場されました。「恥ずかしさでいっぱいでございます。ずっと夢を追いかけている、夢との適当な距離を見つける、そして色んな意味で夢をみて進む。親がよく“すすむ”とつけたなと思います」と笑いを誘い、会場も和やかな空気に。

「自分を日本人と感じる時はいつですか?」との質問に、「他の国の人と交流することで日本人であることに気づかされる。日本人は素晴らしい民族であるのに、最近は日本人と自覚することに戸惑いを感じる人も多い。普通に日本で生きている日本人にもほこりを持って生きてほしい。」と国際舞台で活躍される人ならではの視点を語られました。

最後に、作品にも登場されていた奥様の保子さんも登場。「今日はありがとうございました。彼と一緒に仕事をしているだけで楽しいんです。ただ、映画を観て恥ずかしいと思いましたが。」とはにかまれたのが印象的。

足かけ7年にもわたった撮影。「映画が完成するまでどのようになるか知らなかった。」とおっしゃられる新宮さんでしたが、終わってもなお、新宮さんたちの“夢”は続いています。

今年の6月21日より有馬富士公園(三田市)に、新宮さんが寄贈した立体アート12点を一角に設置し、「風のミュージアム」としてオープンする予定。

 

 

 

トークセッション 「東北を描く、未来を描く」

『ブリージング・アース』に出演した新宮晋さん、『あいときぼうのまち』の菅乃廣監督、脚本の井上淳一さんが登壇されました。集まった観客の皆さんは、ゲストの話を一字一句聞き逃さないよう熱心にメモをとる姿も多数みうけられ、熱いものになりました。

  • 新宮晋さん
  • 菅乃廣監督
  • 井上淳一さん

菅乃監督は、父親が原発によって病気に苦しんでいるという話を昔聞いたことがあり、3.11の原発の爆発を見て父親の話を思い出し、このストーリーを作ろうと思ったそう。「ドキュメンタリーは他の人もつくる。だから、あえてフィクションで勝負したかった」と菅乃監督。そんな監督から、3.11と原発をテーマにして映画を撮ろうと言われたときは、まだ震災が起きて半年しか経っていなかった頃だったという井上さん。「私自身にとって、この問題は重い存在であり、また“3.11”を商売にしていいのかという思いもあったが、葛藤を乗り越え、映画を撮ることを決意した。」と振り返りました。

また、新宮さんは「自然と触れ合う生活をなくしてはいけない、もっと自然と触れあえる生活をしてほしいと思い“田んぼのアトリエ”を作った。このプロジェクトの間に東北の大震災が起こり、そんなのんびりした話じゃないという反面、今こそ、現実で起こっていること(東日本大震災が起きたこと)で意気消沈して悲しむのではなく考えるべき。チャンスと言ったらいけないが逃してはいけないという思いから、こいのぼりとして描こうとしていたものを急きょ“元気のぼり”として元気を描いてこどもたちと一緒になって作り、被災地に送った。“元気のぼり”の活動を通して、神戸と東北の人々が互いに通じ合えたのではないか。アートは人間本来の心に直接伝わるのではないかと思う。このようなことを単にやるのではなく、やり続けていくことが大事。大勢でしかできないことをやり続けたい。みんなでやる力はすごいですから。」と、新宮さんのスピリットを強く感じるお話が聞けました。

 

 

 

つくり手の熱が観客にも伝わったQ&A

『あいときぼうのまち』では、上映前後に菅乃廣監督、脚本の井上淳一さん、出演の黒田耕平さんによる舞台挨拶とQ&Aが行われました。

上映後、観客からは、「自分達の知らない4世代70年にわたる原発との関わりを見ることができて良かった。」「テーマは重くて辛くて暗いというものだが、映画を見た印象はときめき感と新鮮さに溢れていた。」「何だかわからない気持ち、感動したのか悲しいのか辛いのかわからなくて、何度も泣いたが、また見たいと思った。」など、次から次へと感想が溢れ出ました。

作品は、1945年、1966年、2011年、2012年と4つの時代が交錯する物語。編集も幾度となく試行錯誤を繰り返した結果、完成するまで10か月かかったという本作。

菅乃監督は「静かなお話ではあるが、根にあるいろんな怒りなどの感情が秘めたものになっていればいいとの思いで映画をつくった。」とのこと。黒田さんは「私の役柄は秋山(澤田)という売れないライター。自分は何を書いていいのかわからないという設定だった。私自身、3月11日に被災した当時は何とかしたいという気持ちがあっても、何をすればいいのかわからない状態だったので、役の澤田の気持ちがよくわかった。」と話されました。それを受け、脚本の井上さんは、「実はこの澤田は自分なのです。」とし、「脚本の段階から黒田さんを想定していて、彼のひょうひょうとしているがセンシティブな面もあるという部分が上手く現れていて良かった。」と述べられました。

  • 井上淳一さん
  • 菅乃廣監督
  • 黒田耕平さん

最後に気に入っているシーンや見どころについて、黒田さんは、「震災を扱った作品で、震災だけではなくこういった世代別の恋愛が見られるのはこの映画ぐらいじゃないかなと思う。」と語り、井上さんは、「レイ役の千葉美紅さんの最後のシーン、泣きながら最後におばあちゃんに会いたいと言ったのはアドリブだった。あの台詞だけは脚本にない、本当に千葉さん自身から出てきた台詞だったので一番好きなシーン。」と裏話も披露。また、監督は「澤田役の黒田耕平さんとレイ役の千葉美紅さんの見ごたえのある演技を見て欲しい。そして、70年の重みを表現するのに苦労しましたが、この重みを感じてほしい。」と語られました。

本作は、6月21日テアトル新宿ほか全国順次公開予定。