2014年3月に開催する「第9回大阪アジアン映画祭」のプレ企画として、昨年より2か月早い7月からの開催となった「大阪アジアン映画祭特別ゼミナール」。全6回のゼミナールの第1回目は、教室が満員に近い盛況ぶりをみせました。
初年度からご参加いただいている方から、今年初めてご参加いただく方まで、初回から熱気ムンムンの様子にアジア映画ファンや、大阪アジアン映画祭に興味を持っていただく方が着実に増えている手ごたえを感じるうれしいスタートとなりました。
講師から一方通行の講座形式ではなく、双方向のつながりを意図して開催されているゼミナールでは、全員にアンケートを配るだけでなく、毎回講座後に懇親会を開催し、意見交換や交流を図っています。また過去に大阪アジアン映画祭で上映された作品(日本配給がついていない作品)のDVDの参考視聴も可能になっており、見逃した作品に再び出会えるチャンスもあるのです。
第1回目ということで、まだ記憶にも新しい3月に閉幕した第8回大阪アジアン映画祭の受賞結果より、グランプリ作品の『親愛』についてコンペティション部門選出に至った経緯や、評価された要因、そして『親愛』主演で暉峻氏が注目し続けている(ファンだそう)ユー・ナンの活動ぶりにも触れる内容となりました。
当ゼミナールの参加者には中華圏の映画が支持される傾向にありますが、ワールドプレミア作品であったことと、リー・シンマン監督の名前を誰一人聞いたことがなかったこともあり、『親愛』はむしろ一番注目度が低い作品でした。
ここで、暉峻ディレクターは「出だしの印象と中盤以降の印象がこれほど違う映画はない」と実際に映像を見ながらその語り口を説明すると同時に、『親愛』企画段階の出会いへと話は広がりました。『親愛』は、2009年まで東京国際映画祭と並行して開催されていたTPG(Tokyo Project Gathering:経済産業省主催、企画開発段階から完成前の作品を対象に作品を募集、資金調達を目的とした企画のプレゼンテーションやビジネスマッチングの場を設けていた。2009年で終了。)で、グランプリを獲得した企画(2008年出品タイトル『あかとんぼ』)で、当時TPGのアドバイザーをしていた暉峻氏が目をとめたとのこと。
『親愛』に注目していた理由として次に挙げられたのは、主演女優のユー・ナン。 2010年大阪アジアン映画祭でも『紡績姑娘』で死を前にした母親を演じたユー・ナンは、中国現役女優の中でも暉峻氏が注目している女優で、「面白い活動をしている」とその活動ぶりが紹介されました。
私生活でもパートナーだったワン・チュアンアン監督の作品『トゥヤ-の結婚』で世界に知られるようになったユー・ナンは中国では第六世代と組んで多彩な作品にチャレンジしている他、『スピードレーサー』や『エクスペンダブルス2』など外国映画でも活躍中で、最近は南アフリカ映画『ブラック・サウス・イースター』にも出演しています。海外留学歴はないものの、英語も堪能で、『親愛』で話す日本語台詞も字幕なしで違和感なく聞けるハイレベルな語学力を披露し見どころとなっています。
最後に『親愛』の作品自身を顧みて、「中国映画としての主題の足場の置き方が独特」と設定や作品の背景について詳しく掘り下げていきした。
残留日本人孤児に育てられた主人公という設定(主人公は日本語ペラペラ、日系企業内でもエグゼクティブ)で、尖閣諸島問題で両国間の関係が微妙な中作られた作品ですが、日本人対中国人という対立の構図を中国映画としては例外的に持っていないことが『親愛』の独自性につながっています。
また社会状況的に難しいこの時代に、残留日本人孤児という題材を取り上げた作品ながら、制作もストップせずに完成できた理由としては、監督はハルピン出身で残留日本人孤児が圧倒的に多い場所であり、自然と親しい関係を持つ環境にあったことや、監督自身も学生時代に日本語を勉強していたこと、そして主演のユー・ナンも出演をキャンセルすることなく撮影に参加し続けたことを挙げました。
ワールドプレミア作品『親愛』選考の裏話と、作品が評価された理由が改めてプログラミング・ディレクターから解説され、映画祭のちょっとした裏側が垣間見えて、作品への理解が深まる時間となったのではないでしょうか。
大阪アジアン映画祭特別ゼミナール第2回は、8月4日に開催いたします。
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